【春草展示第37期】ミニ解説②西郷孤月《蓬莱》

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9月3日から、菱田春草記念室 第37期 菊慈童に迫る-春草と朦朧体-を開催しています。展示中の作品から1点ご紹介します。


西郷孤月《蓬莱》
明治33年(1900)
飯田市美術博物館蔵

本作は、伝統画題の蓬莱山を、金銀泥を多用しつつ陰影を施した新しい表現で描きます。美術院内で作家同士で意見交換を行う、絵画研究会に出品した、実験性の強い意欲作です。この時期の、新たな日本画を目指す表現の工夫の1つとして「光を描く」ことに挑戦していました。金銀を多用する表現は、批評界から「金銀体」という言葉で批判も受けますが、朦朧体の画風にも用いられました。

菱田春草記念室 常設展示 第37期 菊慈童に迫る-春草と朦朧体-は10月2日まで。若き春草の、空間表現の研究とその成果をご覧ください。

(菱田春草記念室担当)

【春草展示第37期】ミニ解説①《秋溪》

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9月3日から、菱田春草記念室 第37期 菊慈童に迫る-春草と朦朧体-を開催しています。展示中の作品から1点ご紹介します。


菱田春草《秋溪》
明治33年(1900)頃
飯田市美術博物館蔵

本作は、春草が空間表現の研究をはじめた時期の作品です。手前の岩肌や鳩は、狩野派の筆法をかんじますが、空間表現には新たな挑戦があります。これまでの日本美術で重要視されていた線描をなくし、手前から奥へと色彩をぼかして淡く霞ませ、空間を描き出しています。この表現により本作は静寂な秋の気配を伝えていますが、斬新さと不明瞭さゆえに「朦朧体」などと批判を受けました。

菱田春草記念室 常設展示 第37期 菊慈童に迫る-春草と朦朧体-は10月2日まで。若き春草の、空間表現の研究とその成果をご覧ください。

(菱田春草記念室担当)

【春草展示第36期】ミニ解説④《富嶽》

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7月30日から、菱田春草記念室 第36期展示 彩の魅力-春草の色彩表現-を開催しています。展示中の作品から1点ご紹介します。


菱田春草《富嶽》
明治41年(1908) 飯田市美術博物館蔵

輪郭線を用いない朦朧体の画風をとりますが、色彩の濁りはなく、色鮮やかな色彩が特徴の作品です。海には青色を点描でのせ、松のふちには濃い緑色を重ねます。米欧遊学後、印象派や色彩論を研究していた時期の特徴が表れた作品です。
本作は春草の弟・唯蔵の結婚祝いに贈ったもので、三保の松原と富士という伝統画題を描いています。縁起の良い、穏やかな風情を示しています。

菱田春草記念室 常設展示 第36期 彩の魅力-春草の色彩表現-は8月28日まで。春草の色の探求をぜひご覧ください。

(菱田春草記念室担当)

子ども美術学校④ゆかいな動物(陶芸)

ブログ 今日の美博

飯田下伊那の小学校4年生から6年生を対象とした絵画・工作の基礎講座、子ども美術学校。

第4回目は「ゆかいな動物」がテーマ。陶芸に挑戦しました。


まずは先生が粘土の扱い方を実演。粘土で作ったものを焼くことになるので、割れないようにするためのコツも伝えます。分厚く、そして空気の通り道を作ることが大事とのこと。

いよいよつくりはじめます。
粘土はひんやり冷たい!そしてかたい!

こねていきながら、自分のつくりたいゆかいな動物の形を目指します。


ちぎってこねて、のばして作った輪っかを重ねて。高さを出していきます。


大体の形ができたら、へらやくしをつかって表情をつけていきます。


ゆかいな動物たちができました!焼き上がりが楽しみです。

※本記事で使用した写真の一部は、本年度博物館実習生が撮影しました。

(美術部門:菱田春草記念室担当)

【春草展示第36期】ミニ解説③《帰樵》

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7月30日から、菱田春草記念室 第36期展示 彩の魅力-春草の色彩表現-を開催しています。展示作品から1点ご紹介します。


菱田春草《帰樵》
明治39年(1906) 飯田市美術博物館蔵

本作は、米欧遊学後、色彩研究に進んだ時期の作品です。茜色に染まる夕陽を背景に2人が家路につく光景を描いています。丘陵の稜線は、輪郭線を用いずに、色を重ねてぼかす表現をとっています。また、夕焼けの空はグラデーションを用いて光を描き、空間をあらわします。全体に澄んだ色彩を用いて描いたことで、画面の明るさの確保に成功している本作は、朦朧体のひとつの完成形といえます。春草の朦朧体研究、そして色彩研究の成果があらわれている作品です。

2人の人物は、点景(風景画に趣をだすために小さく描いた人物や動物)のように描いていますが、かなり細かな描写が確認できます。青色を基調とした衣服が、暖色の画面に抑揚をつけています。一部には淡い輪郭線を用いて描きます。仕事を終え、家路につく2人の姿はあたたかい会話を想起させ、叙情性を加えています。
手前にある桜と思しき花は、筆跡のみえる点描風の表現を用いています。外遊後の春草が、西洋の色彩理論に基づいた配色と、印象派の表現に倣った点描表現を、自身の作品に取り入れている一例です。

菱田春草記念室 常設展示 第36期 彩の魅力-春草の色彩表現-は8月28日まで。春草の色の探求をぜひご覧ください。

(菱田春草記念室担当)

【春草展示第36期】ミニ解説②《霊昭女》

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7月30日から、菱田春草記念室 第36期展示 彩の魅力-春草の色彩表現-を開催しています。展示中の作品から1点紹介します。


菱田春草《霊昭女》
明治35年(1902) 飯田市美術博物館蔵

本作の背景は略され、淡い色を重ねたグラデーションのみです。輪郭線は用いず、明瞭な色面の濃淡で陰影をはっきり描き、立体感を伝えます。また光の当たる部分にはハイライトを施しており、人物像については写実性を強めた表現になっています。中国古典から画題をとり、姿だけでなく心も清らかな女性を澄んだ色彩で描き出しています。日本美術院内の研究会に出品した作で、画家仲間たちから画題の選択から描き方まで高評価を受けたようです。

菱田春草記念室 常設展示 第36期 彩の魅力-春草の色彩表現-は8月28日まで。春草の彩をぜひご覧ください。

(菱田春草記念室担当)

柳田国男没後60年

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民俗学の創始者として知られる柳田国男が昭和37年8月8日に亡くなって今年で60年になります。

 飯田市美術博物館の付属施設である柳田國男館は、国男が明治34年(1901)旧飯田藩士の柳田家に養嗣子入りした縁により、東京の成城にあった柳田の書斎兼住居を平成元年(1989)に移築した建物です(平成28年に国の有形文化財に登録)。

 柳田と飯田との縁は単に旧飯田藩士の家に養子入りしたことにとどまりません。ある時には国家官僚として飯田を訪れ、民俗学の研究に本格的に進んだのちは飯田下伊那の郷土史家たちと交流し、様々な影響をもたらしました。特に、昭和11年(1936)には飯田の山村書院から『信州随筆』を出版しています。これは、柳田の著作のなかで唯一、初版が地方出版社から刊行されたものとされています。

 国男が養子入りした柳田家は、藩主堀家が下野烏山城主だった時代からに仕えてきた家柄です。今年はその堀家が飯田に入部して350年の節目の年でもあります。柳田國男館では柳田家への養嗣子入りにはじまる柳田国男と飯田にまつわる資料を展示しています。

(民俗担当)

宇宙朝顔④ 一気に季節がすすみました!

プラネタリウム ブログ

 

プラネタリウムの宇宙朝顔。すっかりブログ更新がご無沙汰でした。すみません。

早くつるが伸びないかと期待していたら、成長の良い1本目がのびはじめました。

 

6.29撮影

つるが伸び始めました。暑くてしおれています。

一本目の伸びの良かったアサガオは未だ咲きません。

8.7撮影

今日から立秋。最近のアサガオ。数日前から一気に咲きだしました。

2度目の梅雨もどきを経て「夏」に気が付いたようです。(^^♪

 

私も連日の暑さにへたっておりましたところ、アサガオさんの花に励まされブログ更新いたしました。m(__)m

(プラネタリウム係 Y・M)

 

 

【春草展示第36期】ミニ解説①《林和靖放鶴図》

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7月30日から、菱田春草記念室 第36期展示 彩の魅力-春草の色彩表現-がはじまりました!展示作品から1点紹介します。


菱田春草《林和靖放鶴図》
明治33年(1900) 飯田市美術博物館蔵

林和靖(りんなせい)は北宋期の詩人で、生涯を通じて仕官せず、西湖のほとり孤山のふもとに庵を設け世間と離れて暮らしていました。梅を植えて鶴を飼って愛でていたことから、「梅妻鶴子」とも称されます。春草は、林和靖の清高な生涯に心を寄せたらしく、同画題の作品を幾つも手掛けています。本作の、画面右下に林和靖、左上方に一羽の鶴を配した対角線の構図は、南宋院体、画特に伝 徽宗《秋冬景山水図》(金地院蔵)の秋幅から影響を受けているでしょう。
明治30年代前半の春草は、墨の輪郭線を排し、色を塗り重ねぼかして描く空間表現に取り組みます。しかし混濁した色彩となり、批評界からは酷評を受けます。本作と同じ年に描いた《菊慈童》に対する批評では、象徴的な「朦朧体」の言葉も出てきました。

菱田春草記念室 常設展示 第36期 彩の魅力-春草の色彩表現-は8月28日まで。春草の色の探求をぜひご覧ください。

(菱田春草記念室担当)

【春草展示第35期】ミニ解説⑤未完成の山水図

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菱田春草記念室 第35期展示 墨の情趣-春草の水墨表現-を開催しています。

今期の展示室では、水墨表現にまつわる未完成作品を紹介する一角を設けています。


右から
菱田春草《雨中山水》(未完)  明治30年代頃 本館蔵
菱田春草《山水》(未完)  明治40年代頃 下伊那教育会蔵(本館寄託)
菱田春草《雨後の山》(未完)  明治40年代頃 本館蔵

《雨中山水》は明治30年代の朦朧体期の作例です。画面全体にぼかしを用いており、墨色のみで湿潤な空間をあらわしています。墨のグラデーションからは、多様な色彩が感じられます。
《山水》は明治40年代、画面の明瞭化を重視した時期の作例です。遠景の樹木には点描表現も用いています。となりの《雨中山水》と画題としてはほぼ同じであり、ともに墨を基調としていますが、制作年代で表現の違いを確認できます。
《雨後の山》は、《山水》の構図をやや改め、樹木には緑色を加えています。いずれも、湿潤な空気に包まれた山と木々が描かれている同じ画題の未完成作。比べることで時代ごとの描き方のちがい、短期間での表現の工夫の変化などがみえてきます。

そして、《山水》《雨後の山》を経た完成作と考えられる作品が、《夏山雨後》(明治42年頃 播磨屋本店蔵) です。(今回この作品の展示はありません。) 実景らしさをもちつつ装飾性をつよめた構図をとり、明瞭な色彩も加わり、晩年の春草らしい作になっています。未完成作と比べることで、構図の変遷がわかります。その試行錯誤の様子と、妥協を許さない春草の制作姿勢もうかがえます。

春草は、綿密な写生や構想の後、大下絵(完成作と同じサイズの下絵)無しの一発勝負で描くことが多い画家でした。そのため、このようにいくつもの反故作(途中で描くのをやめた作品)が残っています。春草の作品から時折感じる凛とした空気というか、緊張感というか、そういったものは、制作姿勢からも出ているのかな、とふと思うことがあります。

菱田春草記念室 常設展示 第35期 墨の情趣-春草の水墨表現-は7月24日まで。ぜひご覧ください。

(菱田春草記念室担当)