【春草展示第36期】ミニ解説①初期朦朧体の彩

7月30日から、菱田春草記念室 第36期展示

彩の魅力-春草の色彩表現-

がはじまりました!

今回の展示は、春草の作品の中から、色彩研究に焦点をあてて、各時期の色の特徴があらわれた作品を集めました。色を重ねてぼかす表現の結果、混濁した色彩表現となった初期の朦朧体。画面の明瞭化を模索する後期の朦朧体。そして米欧遊学後の西洋の色彩理論の研究。こうして春草は、朦朧体の表現に鮮やかな色彩を取り入れていきます。さらに晩年には装飾性を重視した作風に進み、色彩を効果的に用いるようになりました。

日本画の革新を目指し、探求の画業を歩んだ春草の、彩あざやかな作品がそろいます。

今回は、「初期朦朧体の彩」をあじわう作品をご紹介します。


菱田春草《林和靖放鶴図》
明治33年(1900) 飯田市美術博物館蔵

林和靖(りんなせい)は北宋期の詩人で、生涯を通じて仕官せず、西湖のほとり孤山のふもとに庵を設け世間と離れて暮らしていました。梅を植えて鶴を飼って愛でていたことから、「梅妻鶴子」とも称されます。春草は、林和靖の清高な生涯に心を寄せたらしく、同画題の作品を幾つも手掛けています。
画面右下に林和靖、左上方に一羽の鶴を配した対角線の構図は、南宋院体、画特に伝 徽宗《秋冬景山水図》(金地院蔵)の秋幅から影響を受けているでしょう。

明治30年代前半の春草は、墨の輪郭線を排し、色を塗り重ねぼかして描く空間表現に取り組みます。しかし混濁した色彩となり、批評界からは「不明瞭」「化け物」「鵺」など酷評を受けます。本作と同じ年に描いた《菊慈童》に対する批評では、象徴的な「朦朧」の言葉も出てきました。
日本美術院の同志とともに研究と挑戦を重ねた日々。日本画伝統の筆法をやめ、西洋美術の写実性(時に空間であったり陰影であったり)を取り入れ、思想や情感をこめた新しい時代の日本画を描く。そんな春草たちの革新は、当時としてはあまりに斬新すぎたのでしょう。
いまの眼で朦朧体の最初の壁「混濁した色彩」についてみると、本作の淡い中間色の青色は、湿潤な空気や山中の風情の描出に効果的に用いられているように感じます。

この場所の空気はどのような感じか。世間の喧騒から離れた林和靖が、羽ばたく鶴をゆったりと眺める気持ち。鶴の視線でみるこの景色。春草が作品に込めた思いや意志とは。作品の前でゆっくりと、いろいろに想像を膨らませながらご覧ください。

菱田春草記念室 常設展示 第36期 彩の魅力-春草の色彩表現-は8月28日まで。春草の色の探求をぜひご覧ください。

(美術部門:加納向日葵)

ブログ