【春草展示第36期】ミニ解説③《帰樵》
7月30日から、菱田春草記念室 第36期展示 彩の魅力-春草の色彩表現-を開催しています。展示作品から1点ご紹介します。
菱田春草《帰樵》
明治39年(1906) 飯田市美術博物館蔵
本作は、米欧遊学後、色彩研究に進んだ時期の作品です。茜色に染まる夕陽を背景に2人が家路につく光景を描いています。丘陵の稜線は、輪郭線を用いずに、色を重ねてぼかす表現をとっています。また、夕焼けの空はグラデーションを用いて光を描き、空間をあらわします。全体に澄んだ色彩を用いて描いたことで、画面の明るさの確保に成功している本作は、朦朧体のひとつの完成形といえます。春草の朦朧体研究、そして色彩研究の成果があらわれている作品です。
2人の人物は、点景(風景画に趣をだすために小さく描いた人物や動物)のように描いていますが、かなり細かな描写が確認できます。青色を基調とした衣服が、暖色の画面に抑揚をつけています。一部には淡い輪郭線を用いて描きます。仕事を終え、家路につく2人の姿はあたたかい会話を想起させ、叙情性を加えています。
手前にある桜と思しき花は、筆跡のみえる点描風の表現を用いています。外遊後の春草が、西洋の色彩理論に基づいた配色と、印象派の表現に倣った点描表現を、自身の作品に取り入れている一例です。
菱田春草記念室 常設展示 第36期 彩の魅力-春草の色彩表現-は8月28日まで。春草の色の探求をぜひご覧ください。
(菱田春草記念室担当)
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