企画展準備日誌 その20 解説パネル設置などなど

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企画展 高山植物と高山昆虫からたどる
南アルプス博物学の120年

会期:2025年6月7日(土)〜8月31日(日)


大型プリンターで打ち出したパネルを裏打ちして、今日は展示室に掲示しました。
資料も少し搬入し、だいぶ展示室らしくなってきました。


展示室の正面には幅4mの大型スクリーンを設置し、南アルプスの風景が次々と映し出されます。
南アの四季の写真をお楽しみいただけます。


展示室を出たところのロビーには、記念撮影コーナーを設置しました。
初夏の南アルプスの山頂に立った感じの、「ばえる」写真が写せます!

というわけで、展示準備は6月7日のオープンに向け、いよいよ最終盤へと向かいます。

(四方圭一郎)

企画展準備日誌 その19 パネル打ち出し

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企画展 高山植物と高山昆虫からたどる
南アルプス博物学の120年

会期:2025年6月7日(土)〜8月31日(日)

企画展スタートまであと1週間。
日夜、展示パネルの作成と打ち出し、裏打ち作業に追われています。

パネルづくりが終われば、次は資料を並べてキャプションを整えていきます。

 

展示室内も少しずつですが、完成に向けて前進しています。

【今日の展示室】
博物史のコーナーのパネルは、8割がた完成しました。
白黒写真が多いのでかなり渋めです。

四方圭一郎

 

企画展準備日誌 その18 亜高山帯の針葉樹林

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企画展 高山植物と高山昆虫からたどる
南アルプス博物学の120年

会期:2025年6月7日(土)〜8月31日(日)

南アルプスのイメージと言えば、広大な亜高山性針葉樹の森ではないでしょうか?
北アルプスと違って、歩いても 歩いても視界がひらけず、苔むした森の急登がいつまでも続くあの感じです。

今回の展示では、亜高山帯の森林を抜けて高山へ至る感じを出したい思い、入口付近は亜高山性針葉樹林イメージでデザインしています。

こんな感じです↓

霧のまくシラビソとトウヒの森。
林床にはフジノマンネングサやイワダレゴケがみっちりと生えています。

オープンまでに、もう少し改造します。
お楽しみに!

【今日の展示室】
A0サイズのパネル12枚を設置したら、ぐっと展示室らしくなってきました。

四方圭一郎

企画展準備日誌 その17 キタダケヨトウ

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企画展 高山植物と高山昆虫からたどる
南アルプス博物学の120年

会期:2025年6月7日(土)〜8月31日(日)

キタダケヨトウは、1959年に南アルプスの最高峰北岳で、高山蛾の第一人者 神保一義さんによって初めて採集され、その後1968年に3個体目が採集されて以降、まったく見つかっていない幻の高山蛾でした。
飯田市美術博物館の南アルプス調査では、この蛾の再発見が大きな目標のひとつでした。

世の中がコロナ禍で右往左往していた2021年7月。
季節はずれの台風とコロナの影響で調査日程が変更になり、美術博物館のチームは調査に参加できませんでした。

その時に、なんと 53年ぶりにキタダケヨトウ↓が採れてしまったのです! 


採集したのは蛾類学会の金子岳夫さん。その第一報を聞いたときは、再発見された嬉しさより、自分自身の手で採れなかった悔しさが勝って膝が震えたのを思い出します。

新たに得られた個体の斑紋やオスの交尾器を詳しく調べたところ、ヨーロッパの個体群と一定の差異があり、akaishialpinaという名前をつけて、蛾類学会会長の枝恵太郎さんと共著で新亜種として記載しました。

2021年以降も、南アルプスでの高山蛾調査は継続しています。
キタダケヨトウの最新情報は、ぜひ展示室でお確かめください!

【今日の展示室】
記念写真撮影コーナーの撮影台を設置しました。
A0サイズの写真のパネル張りが終わりました。明日展示室に設置予定です。

四方圭一郎

企画展準備日誌 その16 タカネマンテマその2

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企画展 高山植物と高山昆虫からたどる
南アルプス博物学の120年

会期:2025年6月7日(土)〜8月31日(日)


▲タカネマンテマの花

昨日の日誌で、南アルプス塩見岳で岡田邦松によって採集されたタカネマンテマが、牧野富太郎によりMelandrium apetalum (L.) Fenzl f. okadae Makinoの名で記載されたことを紹介しました。

最新のシノニミックリストでは、上記のとおりokadaeになっているのですが、古い文献をみるとokadaiと記されているものがあります。

そこで、牧野自身がどのような名前で記載したかを調べてみました。

Makino T.,1918. A contribution to the knowledge of the flora of Japan. Journal of Japanese Botany 2:5-8. 

これを見ると牧野富太郎はokadaiという品種名を付けているのがわかります。
ではなぜokadaiokadaeに変化したのでしょうか?

昆虫など動物では、男性の人名を種小名に付ける場合、語尾にiを付けます。
もしかして動物と植物でルールが違うのでは?と思い調べてみましたら、正解でした!

植物では、「人名の語尾がaの場合は、iではなくeをつけてaeとする」そうです。
ですので、牧野のつけたokadaiは、後人によってokadaeに訂正されたものと考えられます。

牧野の記載論文をみてもう一つ面白いことに気が付きました。
岡田邦松が採取した標本のデータは、「Mt. Shiomi (Kunimatsu Okada!  July 28, 1914)」と記されています。
この時の様子を記した河野齢蔵の記録では7月26日、前澤政雄の記録では7月28日で、どちらが正しいのか判断がつかなかったのですが、牧野のデータと前澤の記録が合致することから、1914年7月28日が正しいと思われます。

些細なことでも調べていくと、いろいろ面白いことがわかってきますね。
しかし、重箱の隅を突くようなことばかりしていると、肝心の展示が出来上がりません。
スタートまでとうとう2週間を切ってしまいました。がんばらねば。

【今日の展示室】
昨日と変化なしです。
A0サイズのパネルを13枚打ち出しました。写真をデカく打ち出すとなかなか迫力があります。

四方圭一郎

 

6月15日■文化講座(見学会)「日夏耿之介ゆかりの碑を訪ねて」(要申込)

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講師:織田顕行(本館学芸員)
日時:2025年6月15日(日)午前9時30分〜11時30分

集合:日夏耿之介記念館前
定員:20名(申込先着順)

申込:5月30日(金)午前9時30分から電話(0265−22−8118)で受付
*参加は無料です。

【内容】
墓所や文字碑など市内に点在する詩人日夏耿之介ゆかりの場所を散策します。

(主な見学コース)

日夏記念館前 ― 追手町小学校 ― りんご並木詩碑 ― 柏心寺(お墓) ― 愛宕稲荷神社 ― 日夏記念館

日夏耿之介(ひなつこうのすけ 1890-1971)は、飯田市名誉市民第1号に選ばれた詩人・英文学者。本名樋口國登。下伊那郡飯田町(現在の知久町)に生まれました。長く故郷を離れますが、昭和31年(1956)に帰郷、同46年に81歳で他界されるまで故郷飯田で余生を過ごしました。
この飯田を愛した詩人の足跡は、りんご並木の詩碑をはじめ、日夏耿之介記念館や市内に十数カ所ある文学碑など各所に点在しています。
美術博物館では、命日にあたる6月13日の前後に、日夏ゆかりの碑をめぐる見学会を毎年開催しています。今年も墓参を兼ねてその文学と人となりに触れる1日にしたいと思います。多くの皆さんのご参加をお待ちしています。

 

 

 

 

 

 

 

日夏耿之介ゆかりの碑を訪ねてチラシ

*本講座は見学会です。

企画展準備日誌 その15 タカネマンテマ

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企画展 高山植物と高山昆虫からたどる
南アルプス博物学の120年

会期:2025年6月7日(土)〜8月31日(日)

タカネマンテマは日本では南アルプスの限られた場所にだけ生える希少種で、世界的には周北極要素の植物です。

この植物を日本で初めて発見したのは、下伊那郡喬木村阿島出身の岡田邦松です。岡田は長野県内で教職につきながら、矢澤米三郎河野齢蔵とともに高山帯の学術調査を積極的に行っていました。

1914年(大正3)7月下旬に、大鹿村から塩見岳に登った時に山頂付近でタカネマンテマを発見しました。その後、牧野富太郎によりMelandrium apetalum (L.) Fenzl f. okadae Makino* の名で南アルプス固有の品種として記載され、品種名は岡田に献名されました。

*この品種名は現在使われていません

飯田市美術博物館には、同じ時代に活躍した前澤政雄の資料が寄贈されています。
上の写真はその中の1点です。

前澤の著書「赤石嶽より」の中に書かれていた文章などから、この写真はタカネマンテマ発見の日の朝の野営地(中俣)であることがわかりました。
左の方に立っているのが岡田邦松で、その右横で準備しているのが河野齢蔵だと思われます。

写真をよく見ると、捕虫網もちゃんと写っていますね。

【今日の展示室】
90☓200cmの、展示室入り口に立てるパネルを打ち出して設置しました。
毎日、少しずつ前進している感じはあります。
完成にはまだ遠いですが…。

 

 

企画展準備日誌 その14 ウチジロナミシャク

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企画展 高山植物と高山昆虫からたどる
南アルプス博物学の120年

会期:2025年6月7日(土)〜8月31日(日)

ウチジロナミシャクは、北アルプスや八ヶ岳ではわりと見かけるシャクガですが、南アルプスでは個体数が少なく、しかも南部でしか見つかっていません。


▲ライトトラップに飛来した成虫(南アルプス茶臼岳)

古い文献の中ではウチジロナミシャクとアルプスナカジロナミシャクが混同されていて、ウチジロナミシャクは南アルプス全域に分布しているように見えます。

しかし、あらためて記録を整理しなおしてみると、全域で見られるのはアルプスナカジロナミシャクで、ウチジロナミシャクは赤石岳大聖寺平より南でしか見つかっていないことがわかりました。

現地踏査でも、茶臼岳と上河内岳で生息を確認できましたが、他の場所では見つけることができていません。

以前紹介したタカネツトガが聖岳から北にしか分布していないように、ウチジロナミシャクは赤石岳より南にしか分布していないようです。
面白いですね。

【今日の展示室】
県内の博物館で、企画展で展示する資料を借用してきました。
大正から昭和初期に採集された高山植物や高山昆虫の標本です。
どれも非常に保存状態が良くて、標本はちゃんと保存すれば、100年という時間を濃縮し容易に過去を再現できるすごいものだと再認識しました。

四方圭一郎

企画展準備日誌 その13 オオギンスジコウモリ

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企画展 高山植物と高山昆虫からたどる
南アルプス博物学の120年

会期:2025年6月7日(土)〜8月31日(日)

高山蛾のほとんどは、7月下旬から8月中旬に発生しますが、オオギンスジコウモリは、山に秋の気配が漂い始めるお盆過ぎから発生する、ちょっと変わった蛾です。

北アルプスや中央アルプス、白山、妙高、秩父山地で見つかっていましたが、なぜか南アルプスの正式な記録はありませんでした。

オオギンスジコウモリはこんな蛾です↓

2017年9月に南アルプス南部を縦走中だったAさんが聖平で本種を見つけて写真を撮影され、南アルプスにも生息していることが明らかとなりました。

いったん生息していることが確認されると次々と産地がみつかるもので、その後の調査で荒川岳、三伏峠、熊ノ平、鳳凰三山でも確認し、南アルプスの亜高山帯上部に広く分布していることわかりました。

大型で目立つ種類でも、調査不足だと「生息していないことになってしまう」例です。

発見後ネットで情報を調べてみると、旧光小屋のウェブページにオオギンスジコウモリの写真が掲載されていたこともわかりました(現在そのウェブページは閉鎖されています)。
一部の人たちの間では、南アルプスにオオギンスジコウモリが生息することは周知の事実だったようです。

【今日の展示室】
展示室の天井から吊るすバナーが納品され、さっそく設置してみました。
展示室入口付近は、亜高山帯の苔むした森に迷い込むようなイメージに仕上がりそうです!

企画展準備日誌 その12 ライチョウ

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企画展 高山植物と高山昆虫からたどる
南アルプス博物学の120年

会期:2025年6月7日(土)〜8月31日(日)

2017年の南アルプスの企画展は「世界最南端のライチョウがくらす南アルプス」と題して、ライチョウを主役に据えましたが、今回はライチョウはあまり取り上げないつもりで準備してきました。

しかし、展示のための写真を選んでいると、やはりライチョウは表情豊かで魅力的な生き物ですので目に止まってしまいます。

なので、いくつかの写真は大きく伸ばして展示室の雰囲気作りに使おうと思い、写真を選び始めました。


▲雪渓の上で餌をついばんでいたペアのライチョウ


▲4羽の雛を連れたお母さんライチョウ

南アルプスのライチョウは、山域全体で約300羽が生息すると推定されています。
個体数が少ないこともあり、北アルプスや御嶽山に比べると出会う機会は少なく、いまでもライチョウを見かけると嬉しくなってしまいます。

高山帯では、ライチョウの他にホシガラス↓や

イワヒバリ↓もよく見かけます。

鳥たちも少しは紹介しますので、鳥好きの方もぜひお出かけくださいね。

【今日の展示室】
今日から、本格的に展示づくりを始めました。
展示ケース、展示台などを運び込み、壁にスクリーンを張ったり、プロジェクターを設置したりしました。
フライヤーの配布作業も終了しました。地域の施設や各地の自然系博物館にお送りさせていただきます。
どうぞよろしくお願いします!

四方圭一郎