【春草展示第34期】ミニ解説② 美術学校の3つの基礎学習

菱田春草記念室 第34期展示

美術学校での学び-春草の基礎学習-

より、簡単に展示内容をご紹介しています。

ミニ解説①では、美術学校入学前の春草の様子 をご紹介しました。

今回、ミニ解説②は、 美術学校の3つの基礎学習をご紹介します。

(* )で記したものは現在展示中の作品・資料です。

 

画塾で古画の模写や季節の植物を写生して、美術学校入学の準備をした春草。明治23年 16歳の時に、いよいよ東京美術学校へ第二期生として入学します。

 

「先づ日本美術の歴史的根拠を牢くし、さて後西洋美術の精華をも参酌せしめんと欲する也」

これは、東京美術学校の校長もつとめた思想家・岡倉天心の言葉です。日本美術の伝統と精神性を重視しつつ、西洋美術の写実性や遠近法などの技術を導入し「明治という時代にふさわしい新たな日本画」を想像することを目指しました。

つまり日本画の近代化を目指しており、美術学校ではその実現にむけて、特徴ある3つの基礎学習「臨画(りんが)」「写生(しゃせい)」「新按(しんあん)」を設けました。

 

基礎学習その1「臨画(りんが)」
日本や中国の古画を元にした手本を模写して、運筆法と伝統画風を学ぶ授業です。学年が上がると「臨摸」に進み、古画の粉本(後人が学習や手本用に移した模写のこと)の模写を行って、日本や中国の様々な画風を学びます。古典から、日本美術の伝統を習得する基礎学習でした。

画塾時代からわずかな期間で、急速に筆技が成長していく様子が分かります。粉本を模写する、というと狩野派の教授法とイメージされる方もいらっしゃるかもしれませんが、美術学校では画派に縛られず様々な古画から学びました。(*羅漢、花卉図、動物写生(円山応挙写生帖の模写))

 

基礎学習その2「写生(しゃせい)」
対象を正確に描く、西洋美術の写実法を学ぶ授業です。現在のデッサンにあたり、植物や小禽を主な対象とします。「臨画」と並行して学習し、日本画の近代化に向けた基礎技術の習得を目指しました。

対象の形・色を丁寧に観察して特徴の把握に努めています。丹念な観察と写生は、花鳥画における春草の基本姿勢となります。(*植物写生、動物写生(剥製の写生)、雉子)

 

基礎学習その3「新按(しんあん)」
学年がすすむと、独自に構想した画題を描く「新按」の授業が始まります。「臨画・臨摸」の学びと、「写生」の学びを合わせて、独自の制作を行います。意匠や理想の表出を求められる新按の課題は、作品の構想を深める訓練となり、精神や情感、技術を兼ね備えた新時代の画家になるための準備をしました。(*五味子に小禽、松に岩、牧童、鎌倉時代闘牛の図、武具の図)

たとえば・・・

菱田春草《牧童》明治26年(1893)は、
[臨画の成果]狩野派らしい筆法 +[写生の成果]牛の毛並みに見る写実性と、空間表現
⇒[新按らしさ]いきいきとした墨線の表現から、無邪気な牧童の様子までも伝わってきます

 

これらの学びを通して、卒業制作《寡婦と孤児》を描き、最優等の評価で5年間の学びを終え、画家として羽ばたいていきます。

 

 

春草の晩年の言葉には、以下のようなものがあります。

…自分の考へでは現今の修養法として第一に古画の研究、第二に写実の研究、第三に自己の考按、この三つは最も必要で、決してその一を欠くことは出来ぬと思ふ。…

このように、東京美術学校の日本の伝統に西洋の技術を加えて新しい絵画を目指す学びは、彼の画業の核となったのでした。

 

次回は[新按]の作品から《鎌倉時代闘牛の図》について、見どころをご紹介します。

(美術部門:加納向日葵)

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