【春草展示第35期】ミニ解説②《秋郊月夜の図》

菱田春草記念室 第35期展示 墨の情趣-春草の水墨表現-を開催しています。展示中の作品から1点紹介します。

菱田春草《秋郊月夜の図》
明治34年(1901) 本館蔵

夜の河畔の群鴨を、墨の濃淡を基調に描いています。前景の深く濃い墨色による明瞭な表現に対し、中継から後景にかけては、輪郭線を排した無線描法、朦朧体らしい表現を使う、異なる描き方を合わせた春草の挑戦がみえます。中景の草むらで二視点にわけるような、古典にならった構図をとりながら、さらに奥行き感をあらわす空間表現も加えようとしている意欲作です。
特に後景には、淡い墨と薄い色彩を重ねたグラデーションを用いています。墨を基調とし色彩をしぼっているからこそ、満月の冷たい光が照らす夜の色彩があらわれています。朦朧体の表現を用いながらそこに明瞭さを少し加えた、バランスのとれた構成となっています。

菱田春草記念室 常設展示 第35期 墨の情趣-春草の水墨表現-は7月24日まで。ぜひご覧ください。

(菱田春草記念室担当)

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