春秋(双幅)

制作年: 明治43年(1910)

材質: 絹本著色

法量: 各幅144.5 × 71.7cm

備考: 飯田市有形文化財

春秋(双幅)明治41年、春草は眼疾を煩い、制作の中断を余儀なくされている。これは画家にとって致命傷ともいえる病気であったが、しかし幸いなことに同年の末には回復し、再び制作活動を行うことができるようになった。

そして明治42年、春草は第3回文部省美術展覧会に名作〈落葉〉を発表し、翌43年の第4回文展には〈黒き猫〉を出品。彼の生涯において最も脂の乗った時期をむかえている。

〈春秋〉は、この明治43年に制作された作品。右幅は八ツ手の下から現れて立ち止まる鼬の姿が、左幅には楓の梢に羽を休める青鳩の姿が、それぞれに春と秋とを象徴して描かれている。まるで時が止まったかのような、静謐な空気に包まれた作品である。

鼬や鳩と言った生物の表現は、没線を用いて丹念に仕上げられ、写実性に傾いた描写法が取られている。一方の草木の表現は、筆意は薄いながらも輪郭線が復活しはじめ、また楓の葉などには装飾性に意を払った描写がなされている。そして背景は白く省略されて、観念的な絵画空間となっている。こうした描法は〈黒き猫〉と共通した方法であり、この時期の春草の特徴をよく示した作品といえる。