1946年高知県に生まれる。
高校時代に父親からキャノネットを買ってもらったことが、写真をはじめるそのもののきっかけだった。高3のとき初めて県展に応募し入選するなど、写真の面白さにのめり込んでいった。
一旦、就職し、その後本格的に写真を目指すべく、1969年、写真家の杵島隆氏に師事。1971年にフリーとなり、はじめは広告写真をやっていたが、翌年25歳のときサハラ砂漠に旅し、 大地のスケールとそこに生きる人々の強靱さに魅せられたことがきっかけとなって、ドキュメンタリー写真に入ってゆく。
ナイル、エチオピアメッカ、チベットといった辺境、異文化の地を撮り続けてきた。これまで20冊以上の写真集を出版しているが、そのうち8冊は海外で編集され、5~9カ国版で広く出版されており、土門拳賞をはじめとして内外の多くの賞を受けている。
野町の写真は、現代文明の恩恵に浸かった現代人には、とてつもなく異次元の世界に見える。それらはドキュメントであると同時に、作品の中に静謐な時間が流れ、一枚一枚がアートといってよい美しさを持っている。
心静かに染み入り、深く語りかけ、考えることを要求する作品群なのである。
野町は長年にわたり人間の祈りと大地をテーマに世界各地を駆け巡り、世界にその作品の発表を続けている名実ともに国際的写真家である。今回の受賞対象となった『地球巡礼』は、イスラムの聖地を始め、主に世界各地の宗教の聖地を訪ねたもので、メッカ巡礼をするイスラム教の信徒、サハラ砂漠の厳しい自然の中で先祖伝来の生活文化を守り続ける民族、極限の高地で、ひたすら仏教を信じつつ生きるチベットの人びと、ダナチル砂漠の酷暑の中で塩湖から塩を採掘する人たち。また、南米アンデスの高原で、ひたすらキリスト教を信じて生きるインカ帝国の末裔。エチオピアのコプト教の厳しい修行をする修道士の姿等々、どれ一つとして簡単に撮影をゆるされるものではない。これらのテーマを30年間にわたり取材を重ねてきた成果を500頁を越える力作で綴っている。まさにすばらしいドキュメントであり芸術性も高い。よって藤本四八賞を贈ることを満場一致で推薦した。
選考委員 田沼武能