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■シャモニーツアー−アルプス1日体験−■


■TGVでパリからジュネーブへ

■マイクロバスで高速道路をとばす

■アルプスの前山の形と地質

■ロープウェイでミディ山頂へ

■ミディ山頂からの展望

■TGVでパリからジュネーブへ

 ラ・ビレットの訪問が終わると、午後はフランスの新幹線TGVでスイスジュネーブへの旅だ。大平原を時速300kmでとばす。ずーっと穀倉地帯がつづく。しだいに低い山々が見えてきた。樹林に覆われた丸い日本の山と違って、左右非の岩山だ。当りは緩やかな丘陵地帯。りっぱな樹林帯などほとんど見られない。このあたりがセーヌとローヌの分水嶺なのだろう。ジュラ山脈を横断するローヌ川にそってしばらく進み、夕方ジュネーブに到着した。

▲フランス新幹線TGV
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■マイクロバスで高速道路をとばす

 翌日、参加者21人の内、16人の希望でシャモニーツアーとなった。料金は日本円で約16000円。やや高いと思ったが、日本人ガイドつきでいろいろなエピソードも聞けるし、なによりもまして一人で行動するよりずっと楽だ。今日は休養日と決めて、参加することにする。
 専用バスでジュネーブを出発し、高速道路に入る。日本と違って高速道路の入口、出口の料金所はない。無料のところが多いが、スイスの場合は格安な料金を支払えば、スイス国内の高速道路を乗り放題だという。車に許可証がわりのワッペンがはってある。
 高速道路をしばらく走ると、フランスとの国境となる。ここで出入国となるが、ツアー参加者はバスに乗ったままパスポートの確認もなく、ガイドと運転手の簡単な処理ですんでしまった。ガイドによると、日本人は問題を起こさず、お金を落としてくれるだけなので、大歓迎らしい。喜ぶべきか、それとも嘆くべきか。グループで押し掛け、ガイドの案内でロープウェーに乗って、食事をして、言われるままおみやげを買って時間と金をついやす。自分もその一人として参加していることを考えると複雑な気分となる。
 しかし、当日の快晴がもやもやとした気分を吹き飛ばしてしまった。雪を被った山々が近づいてくると、居ても立ってもおられない。もうガイドの説明なんてうわの空。このあたりの谷は氷河がつくった広々とした谷だ。川沿いのハイウェーからもたいへん景色がよい。モンブランやこれからロープウェーで登る予定のエギュー・ディ・ミディなどのアルプスの山々が遠望できる。モレーンがつくった丘陵の上に、森に囲まれた集落が雪山を背景にしている様子はなんとも形容しがたい。

▲高速道路
▲アルプスが見えてきた
▲ケスタ地形
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■アルプスの前山の形と地質

 アルプスの前山の多くは緩い傾斜の地層の形を反映した組織地形をなしている。すなわち非対称の山塊で、一方は地層面を反映したなだらかな斜面で、もう一方は地層を切って急斜面となっている。これらの地層はナッペをなしていて、下位の地層との間に何本もの水平断層があり、上部の地層の方が一般に時代が古い。この当りでは古第三紀の地層の上にジュラ紀のドロマイトが載っている。これはイタリア半島を含むアフリカ大陸がヨーロッパに衝突しため、砂や礫などの粗粒な地層の上にテーチス海に堆積した時代の古い石灰岩やドロマイトなどがのし上がってきたためだ。断層に近傍なのだろう、ときどき見られる規模の大きな横だおし褶曲がみごとだ。
 しかし、ときどき土砂採取?の砂利の山や、氾濫原につくられた灰色の工場やビルなども目にはいる。さらに狭窄部下流側での高速道路の巨大な橋脚が景観をかなり悪くしている。ここには戦前火薬工場があって、かなり爆撃されたという。こんな山の中まで戦争の影響があるのかと驚いてしまう。現在も工場群が連なっている。
 狭窄部を過ぎるとしだいに狭いV字谷となる。後氷期(数千年前〜)に河川がU字谷の底を侵食してつくった谷だ。アルプスの主稜線からシャモニーの谷へ流れる氷河の末端を横に見ながら、シャモニーに到着。

▲褶曲している地層
▲怖ろしい橋脚
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■ロープウェイでミディ山頂へ

 U字谷の底につくられた観光の町だ。バスはロープウェーの乗り口で停車し、すぐにロープウェーに乗り込む。平日ではあるが、好天のためかスキーヤーが大勢いる。ギュウギュウに詰められて中継点まで登る。ロープウェーから小さくなっていくシャモニーの町がおもちゃのように見える。
 ここからミディの山頂まで再びロープウェーで一気に登ってしまう。アルプスの前山が次第に眼下となり、展望が開けてくる。1000mの谷底から3800mのこのアルプス稜線地帯まで、二つのロープウェーを合わせて高度差2800mの旅だ。ここから山頂のある峰まで橋を渡り、カコウ岩を掘り抜いてつくったトンネル中のエレベーターにのって山頂展望台へ行く。氷と岩の零下18℃の極寒の世界。しばらく寒さも忘れて、雲一つない大パノラマを楽しんだ。

▲ロープウェイからミディ
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▲モンブラン
▲氷河の南はイタリア
▲グランド・ジョラス
▲シャモニー針峰群と氷食谷
▲シャモニーの町

■ミディ山頂からの展望

 まず、南西方向に名前の通り白い雪におおわれたモンブランが、主稜線の山々から顔を出している。ミディよりさらに1000mも高い。フランスとイタリア国境にあるヨーロッパ一の山だ。なだらかな丸い山頂に夏場なら登れるような気がしてくる。南はひろい氷原となっている。Mer du Glace(氷河の海)の最上部の氷冠 Glacer du Geant(巨大氷河)だ。このシャモニーの谷へ下る氷河は、スキーのツアーコースとなっている。クレバスがあちこちにあって危険なため、ガイドが必要だという。よく見ると、ミディをつくる稜線をコルまで歩き、コルから氷原へ滑っているスキーヤーがアリのように小さく見えている。経験をつんだ上級向きコースなのだろう。氷原の向こう側はイタリアだ。イタリアからもこのミディへのロープウェーが伸びている。ミディは国境でなく、フランスの山だから出入国の手続きが必要なのだろう。ロープウェー山頂駅の売店にはフランス・スイスのどちらの硬貨も使うことができた。イタリア硬貨も使えるのだろうか。
 南東から東にかけての展望は随一だ。まず氷河ごしにアルプス三大北壁の一つグランド・ジョラスが間近に見える。数多くのアルピニストを飲み込んだ魔の山だ。荒々しい北壁には雪がつく余裕など全くない。さらに東を見ると、遠くにピラミダルな山が見える。これも三大北壁の一つマッターホルンだ。そのすぐ右側のなだらかな丸い稜線がモンテローザ。モンブランはスイス領ではないので、この山がスイス一の山である。さらに東を向くと氷河に削られて針(Aiguille)のようになった山々が目の前だ。シャモニーの町からそそり立っているシャモニー針峰群だ。自然がつくる造形にひたすら驚く。人間の尺度では悠久の時間をかけて自然がつくった不動の世界だ。しかし、地球の歴史から見れば、これらの岩と氷の造形は造山作用と氷河の侵食作用とのせめぎあいがなせる一瞬の姿に他ならない。
 さらに目を北へ向けると、シャモニーの氷食谷がよく見える。氷期にはこの谷全体が氷に埋もれていたのだろう。対岸の山々には緩やかに傾斜した地層がよく見える。アルプスの地形や地質構造の基本をつかむのにもってこいの場所だ。この前山の向こうにレマン湖の雲海をはさんで、雪を被り長く伸びた山脈が見える。これはアルプス前縁のジュラ山脈だ。明日時間があれば、ぜひ見に行きたい。
 手足がかじかんでくる。寒さでカメラのシャッターが下りないという人も出てきた。ガイドさんが、カメラを胸の中に入れておいて撮影するときだけ出さないと駄目だよ、と言っていたわけがわかった。寒さで電池が急激に消耗しているわけだ。手早く写真をとってしまう。どのくらい山頂にいたのかよく分からないが、寒さの限界となり、再びエレベーターで下り、山頂駅の方へ行く。ストーブの前でしばらく休んで、帰りのロープウェーで町まで下りる。
 昼食後、しばらく町並みを散策した後、専用バスで行きと同じ道を通ってジュネーブへ戻る。ゆっくりと地層を見ることができないのが残念だ。

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