画面中央に釈迦入滅(涅槃)の場面を描き、その周縁に釈迦臨終前後の7つの説話を配するいわゆる八相涅槃図(はっそうねはんず)。以下順にたどると、画面向かって左下に鍛冶屋純陀(ちゅんだ)の供養、その上に虚空を上昇する釈迦(臨終遺誡)、画面中央に涅槃、画面向かって右下に金棺出現(再生説法)、その上に金棺不動、その上に拘尸(くし)城を旋回する金棺、画面中央上部に迦葉接足(かようせっそく)・荼毘(だび)、画面向かって左上に分舎利をそれぞれ描く。八相涅槃図の類例は通常の涅槃図に比べて格段に少ない。なかでも本図の図様は、13世紀頃の作と目される岡山・遍明院、同・自性院安養院、京都・万寿寺の各本に近似する。その作風は、全体の落ち着いた色調に対して釈迦をはじめとする登場人物が色鮮やかにあらわされ、諸本に比して明快な仕上がりである。同本の箱書きには、江戸末期に当時の住持唐山寿盛(とうざんじゅせい)が、東福寺塔頭(万寿寺か)の涅槃像を拝し、開善寺本と同様であったと記している。