▲目次へもどる
■ラ・ビレット−科学する心を育てる−■


■工業地帯跡地にできた文化都市

■ヨーロッパ一の規模を誇る科学館

■子どもたちが遊び回る「子どもの国」

■壊れてもすぐに修理できる展示

■展示室が研究のフィールド

■子どもから大人までの教育施設

■工業地帯跡地にできた文化都市

 ラ・ビレット(科学産業都市)は、先端分野を対象としているだけでなく、参加体験型の試みがなされている点で、新しい科学館といえる。日本からも科学技術館の学芸員が派遣されて日仏共同の試みがなされている。特に情報処理と数学の分野での共同研究・展示開発が活発で、子どもの学習コーナーの共同研究も始まった。
  ラ・ビレットは実は音楽都市、科学産業都市、大ホールなどの3つのセクションから成り立っている。もともと工業地帯だった広大な土地を国が買い取って、1970年に上の3つの文化都市をつくることを決めた。音楽都市には国立音楽学校や講堂・音楽ホールなどがつくられ、現在楽器の博物館とダンスの学校をつくっているという。大ホールは6000席のホールとなったり、商業的な展示場にもなるという。ラ・ジオードはコンピューター制御の全天周ビデオシアターで、年間100万人が見にくるという。そしてもう一つが科学産業都市だ。

▲ラ・ジオード
▲戻る
▼次へ

■ヨーロッパ一の規模を誇る科学館

 科学産業都市は科学技術との出会いをテーマにした国立の科学館で、1986年にオープンした。ヨーロッパでは一番新しく、規模が一番大きいという。年間の予算規模が7億2千フラン(145億円)で、内訳は国からの収入が6億フラン、チケットと事業収入が1億2千フランである。入館者数は年間570万人、職員は1500人ほどで、他に清掃や管理などの委託?で2000人が働いているという。これらは科学産業都市のみの数字であり、ちょっと想像がつかない。日本との共同研究の他に各国との共同研究が盛んで、概要を紹介してくれた方はなんと国際部の部長とのこと。フランス国内のみならず、世界を対象にしているところがすごい。実際に入館者の30%近くが外国人だという。

▲科学館(科学産業都市)入口
▲戻る
▼次へ

■子どもたちが遊び回る「子どもの国」

 科学産業都市の展示ホールは2つに分けられる。一つは一般向けの展示場で、30000uの広さを持つ。もう一つは1992年にオープンした子ども用の展示場で3800uの広さである。今回時間の関係で、子ども用の展示「子どもの国」を見学した。
 子どもの国は入口が二つに分かれており、一つが3〜6才用、もう一つが5才〜12才用となっている。将来的に12〜15才用の展示もつくる予定という。約1時間のコースとなっており、年間50万人が入場する。日本の科学技術館から派遣された水島さんらに5才〜12才用の展示を説明していただいた。
 ここは@コミュニケーションの技術 Aあなたと僕 B生き物って何? C機械と仕組み の4つのコーナーからなる。展示はすべて参加型で一つのことを簡単なことから高度なことまでよく紹介している。ミクロの世界をみるところは、ルーペから自分で操作する電子顕微鏡まであった。また、たとえば放送番組づくりのところではグループで参加しそれぞれが役割分担しながら1本の番組をつくるなどよく工夫してある。生き物の展示は、生き物に触れることが重視されている。熱帯のチョウが乱舞する温室や、社会生活するアリの巣の中を観察するなど大人でも充分面白い。子どもに人気があったのは、アリの大きな模型だ。数人でとりまいて、アリの体をさわっていた。これらの展示は教科書的なものでなく、発見する喜びに主眼をおいている。さらに子どもたちに科学的なセンスを高めることを目的としているようだ。子どもたちが飛び回って楽しんでいた。

▲「子どもの国」の展示風景
▲アリ模型で学ぶ子どもたち
▲戻る
▼次へ

■壊れてもすぐに修理できる展示

 監視の人もいるようだが、子どもたちがかなり荒っぽく扱っていても注意していないようだ。安全性と耐久性に自信があるのだろう。解説者によれば、常時100人の技術者がいて、もし故障すればすぐさまユニットごとそっくり作業場の方へ移動して直してしまういう。実際壊れている展示品は見ることができなかった。作業場をぜひ見たいと思ったが、中二階の広いスペースを指摘してもらったのみで、中を見ることができなかった。

▲電顕を操作する子ども
▲戻る
▼次へ

■展示室が研究のフィールド

 もう一つ興味をもったことがある。この子どもの国が教育学の研究のフィールドにもなっているということだ。大学の研究者による研究もなされるらしいが、科学産業都市内の青少年科学部120人の職員の内、博士号をもつ人が10人もいて、常時フィールドリサーチをしている。この研究が再び新しい展示にむすびついていくのだろう。
 大人用の展示は時間の関係で一部しか見ることができなかった。全体に共通すると思うが、参加型の展示が多い。科学技術史的なものといえば、たとえば日仏KAIKO計画で活躍したノーチラス号(潜水艦)のようなエポック的なもののみのようだ。

▲ラ・ビレットの内部
▲戻る
▼次へ

■子どもから大人までの教育施設

 学校との連携は「子どもの国」での学習があるが、これのみではない。ラ・ビレット教室という本格的な学習プログラムがある。これは展示を利用しながら科学技術を学習するという1週間の教室である。午前中は普通の授業をラ・ビレットで行い、午後に展示を見学するというものだ。これがなんと年間220クラスもあるという。その他にも教師の研修会やシンポジウムが盛んに行われている。このような企画を実施するために、科学産業都市には学校教師が40人もいるという。
 もう一つ、近年の社会問題とからむが、職業情報サービスを行い、様々な職業の内容・将来性の紹介とそこにたどり着くまでにはどの様な過程が必要なのかという情報を提供している。展示の中身も大人を意識して作ってあることもあるが、青年を含めた大人の入館者が多いことを感じた。科学館は“子どもの世界”という日本とは大きく異なってる。
 ラ・ビレットは文化国フランス政府きもいりの子どもから大人までを対象とした未来志向の芸術・文化の殿堂である。また逆にこういう文化を広め高める活動が活発になされているからこそ、文化国家がゆるがないのだろう。日本も見習わなければならない点だ。

▲展示室内での授業
▲目次へもどる