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■アルプス前縁の褶曲帯、ジュラ山脈■


■一番近いジュラ山脈へ

■展望のいいローカル電車

■石灰岩とアルプスの展望

■一番近いジュラ山脈へ

 ジュネーブ市立自然史博物館の訪問が午前中に終わったため、午後はジュラ山脈へ行くことにする。フランスの白亜の崖が白亜紀なら、ジュラ山脈はジュラ紀の名の由来だ。地形・地質を見ることも一つの目的だが、たぶんレマン湖を挟んでアルプスが遠望できるはずだ。前日仕入れた2万5千分の1地図を見ながら、アクセスの方法を考える。この地図はシャモニーツアーの後、本屋を数件まわって購入したものだ。スイスの地図はすばらしい。ついはずみで?ツェルマットやインターラーケン付近の地図まで購入してしまった。さて、ジュラ山脈への一番近道は、ニヨンからローカル線にのって、ジュラ山脈の入口サン・セルグ駅まで行くことだ。
 ジュネーブのコルナバン駅からローザンヌ行きの鉄道に乗る。ニヨンまで15分ほどだ。ジュネーブを出ると田園地帯が広がり、広々としていて気持ちがいい。ニヨン駅でローカル線に乗りかえようと、構内でサン・セルグ行きの電車を探すが、見つからない。しかたなく、駅のインフォメーションで聞くと、駅を出て道の向こうだという。窓から眺めても駅のホームがあるとは思えない。良く分からないでいると、係の人が駅の外まできて教えてくれた。外に出ると確かに車道と建物との間の歩道のようなところに線路があった。分からないはずだ。ホームは道路と同じ高さで、ホームや線路の上には人が行き来している。おまけに線路の向こうの建物には、店が並んでいるのだが、これらの店の入口はそのまま線路に面していて、出入りするには線路を通らなくてはならない。つまり果てしなく歩道に近い線路なのだ。ほんとに電車がくるのかと疑問に思いながら、まつこと約20分。可愛らしい2両編成の電車がきた。

▲ニヨン駅の案内
▲サン・セルグ行きの電車
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■展望のいいローカル電車

 フランス国境に近いサン・セルグ行きのローカル線に乗る。標高400mのニヨンから1050mのジュラ山脈まで、高度差650mを40分かけて登る。ニヨンを出てしばらく谷の中を走ったかと思うと、すぐ展望のいい田園・果樹園地帯となる。ジュラ山麓に広がる緩い丘陵上にできた小さな村をつなぎながらしだいに高度を上げると、雪を被ったアルプスとレマン湖が見えてきた。今日も快晴。展望はすばらしい。村が途絶えると周りはやや急な斜面となり、しばらく森の中を走った後、午後2時40分ジュラ山脈の入口サン・セルグに到着する。

▲電車からアルプス遠望
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■石灰岩とアルプスの展望

 ジュラ山脈は、ヨーロッパの安定大陸上に堆積した中生代の地層がアルプス造山運動の影響を受けて緩やかに褶曲してできた山々だ。大きな波長の褶曲はそのまま地形に反映して、背斜は尾根に、向斜は谷になっている。地形の特徴を見るには高いところに登らなくてはならないが、どうやら時間もないし雪も深いので、サン・セルグ周辺を散策することにする。
 サン・セルグは小さな村だ。駅から10分も歩くと、すぐ町はずれになってしまう。途中小さな町でもまん中にはりっぱな教会があり、レストランやさまざな店も並んでいた。町はずれには小さなゲレンデがあり、小学校の子どもたちが集まっていた。スキーの練習をしていたのだろう。そういえば、日本はゲレンデスキーが華やかで、スキーといえば山を削ったゲレンデスキーをさす。しかし、スイスではゲレンデというのは子どものスキー練習場で、レジャーとしてのスキーは氷河やなだらかな自然の地形をつないだツアーが主体のようだ。ダウンヒルもあればクロスカントリーのツアーもあるわけだ。ジュラ山脈はクロスカントリーのコースとなっているらしく、ところどころにスキーの散歩道があった。自然の中で汗を流すのが本来のレジャーなのだと実感する。
 雪のない道は、車の道だけだ。結局、ニヨンとフランスを結ぶ道を展望の効くところまで歩くことにする。道路は斜面を削ってつくってあるが、日本のように大規模に削り取って大きな人工の崖をつくるわけではない。もちろんコンクリート吹き付けなどなく、“自然のまま”のようにみえる節理の発達した石灰岩だ。それほど堅固とはいえず、日本と岩質は変わらない。降水量はかなり違うだろうから単純に日本にあてはめるわけにはいかないのかも知れないが、日本でも地形に合わせた道づくりをしてほしいものだ。
 展望のきくところにでると、そこには長椅子とアルプスのパノラマを描いた看板があった。細長く伸びるレマン湖の向こうにアルプスと前山が遠望できる。モンブランやグランド・ジョラスも確認できた。レマン湖の谷は基本的にはNE−SW方向の構造的なものなのだろう。成因は異なるが、広々としていて伊那谷に通じるところがある。さらに、レマン湖の向こう側はフランス領で朝日が遅く、こちらのスイス側は朝日が早い。かつて領主が異なっていたという伊那谷の竜東と竜西の姿にだぶってしまう。
 雪道を少し入ってみるが、普通の革靴で来ているので、途中で引き返す。雪道にはスキーの跡と、シカやウサギなどの足跡が交錯していた。
  実はジュラ山脈へは旅行前から行ってみたいと思っていた。アメリカ合衆国のアパラチア前縁 Valley and Ridge Province のように褶曲が発達していると思ったからだ。もしかしたらダイナミックな褶曲が見れるかも知れないと。しかし結果として、褶曲を観察することができず、ジュラ山脈の地形の特徴を捉えられるような展望の良いところにも行くことはできなかった。それでも、実際にスイスの山と村に触れることができて思い出の残る半日だった。

▲サン・セルグ駅
▲ジュラ紀の石灰岩
▲レマン湖とアルプス
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