第5回[公募の部・一般 奨励賞] 
「穂高1500mの水」和田直樹
 
 

受賞作品小論文

私たちの住む地球は、その表面の3分の2が水で覆われており、宇宙の中でも奇跡的に水が存在し、このことによって生命が生み出されてきました。人の体を構成する成分の3分の2も水分で、それは人だけに限らず多くの動植物も60~90%が水分で構成されています。生きるもの全ての源である水。近年、地球環境という言葉が頻繁に使われるようになりましたが、環境汚染や地球温暖化などによる、地球に存在する水への悪い作用の結果が、あらゆる生命の存在を脅かしているのです。
 周囲を海で囲まれ、亜熱帯から亜寒帯に位置する日本列島は、世界の中でも水の豊かな国土です。それゆえ、私たち現代の日本人は水の存在をあまりにも当然のこととして生活してきましたが、水は1日たりとも欠かすことのできない貴重なものです。
 その水という生命にとって貴重な存在を、身近な自然環境の中で再認識することのできる場所として、長野県安曇村上高地に私は出会いました。本州のほぼ中央部、標高1500mに位置する上高地には、北アルプス槍・穂高連峰の山々を源流とする梓川が中央部を流れ、その周囲には湿原や池が多数存在し、豊かな水辺の環境を形成しています。また、季節ごとの気温の高低が大きいために水の状態の変化を多様な姿で見ることができます。
 水という物質は固体、液体、気体と状態を変化させていくだけなのに、それが自然の中では、雨、雪、霧、霜、霞…といった様々な言葉で表現できるほど、豊かで繊細な表情をみせてくれます。私は、自然の中で目にする水の表情を1枚1枚写真で丁寧に記録することにより、あらためて水の恵の尊さを知ることができるのではないかと考えました。
 上高地という限られた地域ではありますが、ここ数年間、季節を問わずその中を何度も何度も歩き回ることによって、水について、自然について様々なことを学びました。
 写真家として、この美しい水を守るために、写真によって何を伝えていくべきかを考えながら、今後も撮影を続けて行きたいと思っています。



  
 

人間は勿論のこと動物も植物も水なしでは生きることができない。作者はその水に着目し、北アルプスを源流とする梓川に題材を求め撮影している。被写体スクエア、すなわち正方形にフレーミングし、ある時は造形的な美しさで水を讃え、ある時は故葉の表面に付着した霜のおりなす素材の美しさを写し画面構成をしている。自然のいとなみ、緑の樹木、水をデュエットで奏でているような美しさを表現している。環境・文化をテーマにする飯田市に相応しい作品である。

選考委員 田沼武能