「朝、四時半、水の入った田で父が代かきを始めた。「トントントン…」とトラクターが静かに進み、水と土が混じってゆく。やがて東の空が赤く染まり始めた。」
寒川真由美さんの小論文は、こんな書き出しで始まっている。出産のため実家に、戻った作者が久しぶりに見た父の農作業の風景に、子ども時代の事を思い起こす。
そして生まれてきたわが子を連れ、再び帰省してみる故郷の変貌ぶりに嘆く。子どもが群れて遊ぶ場所もない。農家には後継者もいない。米は減反と最悪の環境になったことを痛感する。
そんな時代になってしまったが、主人の両親が定年退職後、わずかばかりの農耕を始める。そして子どもたちに両親の農作業の手伝いをさせて、さまざまな体験をさせながら、子育てをする家族をドキュメントし、フォトストーリーにまとめている。
作者は毎年、夏になると古巣に来て、子を生み、南の国に帰っていくツバメを自分の姿に重ねあわせ、プロローグとしているアイデアはすごい。そして子どもたちに農村の暮らしを体験させ、自然とのふれあいを学ばせる。そこには農村のしきたり、祭りごと、作物への愛着等が父から子へ、そしてその孫に伝えてゆく光景が自然な姿で写し出しており、モノクロームの技術を生かしてドラマに仕上げている。しかし、物語を広すぎたため、主役である「じいちゃん」の表現が弱くなってしまったことが残念である。
選考委員 田沼武能
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