南島絵里子は第3回の藤本四八写真文化賞で奨励賞に選ばれており、写真の技術、表現力は抜群に優れたものを持っている。今回もその高度な表現技術を駆使し、20枚のフォトエッセイにまとめている。
撮影の舞台になっているのは、瀬戸内海の尾道である。物語は小津安二郎監督の名作映画「東京物語」を見て誘発され、8年間に尾道を訪ねたことから始まる。そして8年前の思い出を募いつつ現在とのズレを感じ、その出会い、発見の一つひとつを心象風景と重ねあわせて写真化し、物語を展開してゆく。ある時は鳩の群に心を惹かれ、夕日に映える連絡船の鉄壁、列車の中で見かけた高校生のカップル等々である。また街で出会った犬や猫もそのドラマに登場する。それぞれはなんの繋がりもないのだが、組んだ写真で見せられると尾道という街の生活のリズム、物語が感ぜられる。
「人生は、出会いと別れのドラマである」と、私は思う。これは半世紀以上人間を撮り続けた私の結論でもあるのだが、作者は、その出会いの瞬間を自分のイメージに作りあげ、何気ない光景を捉えながら作者の想像の世界へと見る人の心を魅了してゆく。
フォトエッセイは単純に核となる人物がいないため、20枚のストーリーを組むことは難しいのだが、「隔たりのリズム」は、それを見事にまとめあげており、写真文化賞にふさわしい作品といえよう。
選考委員 田沼武能
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