菱田春草 「春暁」  明治35年(1902) 絹本著色 119.2× 49.8p
 新緑を帯びた起伏を持つおぼろげな丘と、その上に立つ桜の若木を描く。まだ明け切らぬ春の朝の気配を捉えた作品である。
 春草は明治32年頃から没線主彩、いわゆる「朦朧体」による絵画技法の研究を続けていた。この技法は画面に霞を導入することによって空間性と光の効果とを作品内にもたらそうとしたものであったが、霞の描写に際して空刷毛によって色を混交していく必要があったために、色彩が濁りやすいという傾向がみられた。これを師の岡倉天心に指摘された春草たちは、空刷毛による色の混交をさけて、明るい色彩による絵作りを試みるようになる。本作はその過程による作品で、明るく澄んだ色彩が用いられている。