菱田春草 「秋郊月夜之図」  明治34年(1901) 絹本著色 109.8× 46.4p
 満月の冷たい光に照らされた河畔の群鴨を、墨色の濃淡を基調にした表現で描く。前景の汀洲に見えるような、滑らかで深みのある墨色による表現は、東京美術学校で春草が学んだ狩野派的な表現を見せている。しかし一方で中景から後景にかけては輪郭線を廃した没線描法で描かれており、筆線に支配されていた従来の狩野派の絵画からは、一歩抜け出た表現が見られる。
 また、墨色を基調とした作品だけに、この時期の特徴であった「朦朧体」の色彩混濁の弊害からは免れており、全体としてすっきりとした画面となっている。