鈴木芙蓉 「那智瀑泉真景図」  寛政5年(1793) 絹本墨画淡彩 167.7×130.9p 軸装一幅
 根津美術館蔵の「那智滝図」をはじめ、版本まで含めればかなりの作例が存在する「那智の滝図」の中にあって、芙蓉の作品は極めて得意な形態を見せる。那智の滝といえば、一条の水流が真直に落下する姿を想像するが、芙蓉の画では、これが強風にあおられ右方向に大きく尾をそよがせている。
 本図は、款記によると寛政5年(1793)に暴風雨の中、那智山を訪れた際に目の当たりにした那智の滝の情景を、絵に描きたくてうずうずしていたところ、帰途に立ち寄った大坂の儒医藤井子穆に求められて描き贈ったとある。芙蓉の一連の「那智の滝図」のうちの根源を成すと考えられる作品で、その図様創出の経緯を知る作品として意義深い。圧倒的な本紙の大きさに、得難い景観に出くわした芙蓉の感動の度合いが見て取れよう。