佐竹蓬平 「溪山棋楽図」  文化4年(1807) 絹本淡彩 119.4×39.7p 軸装一幅
 荘子の世界観を愛し、穏やかな山水の中に、文人の営みを繰り返し描いた蓬平であるが、最晩年の本作品では、さらに山中の奧深くへと人々を導いている。
 奇観を呈する遠山は、さらに深層へと続き、自然の奥行きを示し、隠者が集う幽谷へと向かう途次には、険しい山路が横たわっている。山中の風景をクローズアップするように、構図法を変えて描く岩上には、隠者が悠然と棋局を囲んでいる。それはもう、身近な自然景観の中にたたずむ文人の姿ではなく、俗世から隔絶した仙人の姿にも等しい。
 この年、蓬平は住み慣れた伊那谷を後にし、西遊の旅へと出たが、行旅途中で病に逢い、郷里に引き返して没している。その動向を示すように、長年の伊那谷の穏やかな景観から、一歩足を踏み出したような深遠な自然観が現れている。