菊池容斎 「水辺蟹図」  明治8年(1875) 絹本墨画淡彩 36.4×81.9 軸装一幅
  菊池容斎(1788〜1878)は、幕末から維新にかけての江戸画壇(東都画壇)の近代化を担った人物である。狩野派を学びながらも、古画から近代の画家に至るまで広範に研究し、特に有職故実に基づいて歴史上の人物肖像500人を描いた『前賢故実』全20巻を描くなど、歴史画の基盤を高めた功績は大きい。その画風は、復古大和絵の復興をみせるとともに、真摯な絵画の研究に裏付けられ、近代の幕開けを想起させる新たな感性をのぞかせている。
 本図は、彼の作風から少し趣を異にする洒脱な作風であるが、墨色と淡彩のみによる簡略な筆致でありながら、明確に主題を捉えている。