狩野永岳 「海辺老松図」  紙本墨画 60.9×127.1 軸装一幅
 狩野派も幕末に近づくと、江戸初頭以来の形骸化しつつあった画風に変化を加えようとする気風が生じはじめる。京狩野家として彩管を揮った狩野永岳(1790〜1867)もそのひとりで、新興の四条派風の筆致を取り入れ、狩野派の中にあって形骸化から脱却しようとする新鮮な作風を作り上げた。
 本図は、松に波濤を配した伝統的な福寿画題によるものの、新興の作風を明確にし得る作品で、岩礁にはねる波濤や岩塊の微妙な墨色の変化に粉本のみに依らない写実的要素を見い出すことができる。また画面のほとんどを波がしめる構図などにも形式に捉われない新しい試みが見て取れ、明治へ向かう新時代へのかすかな胎動を感じさせている。