鹿

制作年: 明治36年(1903)

材質: 絹本著色

法量: 167.1 × 84.0cm

備考: 飯田市有形文化財

鹿水辺に立つ一匹の牡鹿の姿を、静寂な空間の中に描写する。鹿の表情は厳しく、強い精神性を感じさせる作品である。

主題となる鹿は、角の凹凸の立体感や細かな毛の質感まで表現されており、写実性に傾いた描写がなされている。また背景の空間は朦朧体の手法によってはいるが、色彩の混濁は見られず、柔らかな光に満ちた明るい絵画空間が展開されている。初期の朦朧体から、色彩の純化へと進んだ時期の画風を示した作品といえるだろう。

なお本図は、春草と大観がインド漫遊より帰国した後の、明治36年秋に開催された第15回日本絵画協会・第10回日本美術院連合絵画共進会に出品された作品の一つであり、本作は銀章第六席を獲得している。