伊那谷自然史論集 vol.5

規格: A4判 モノクロ

ページ: 99ページ

定価: 定価700円 →100円

発行日: 2004年3月20日

発行元: 飯田市美術博物館

伊那谷自然史論集 vol.5 目次

■論文・報告(本文リンク)

■観察記録ノート(本文リンク)

  • 飯田市美術博物館周辺に生息する両生・爬虫類の記録  本文PDF(118KB)
  • 長野県中川村と上村でトワダオオカを採集  本文PDF(74KB)
  • ハチモドキハナアブ族2種の長野県伊那谷からの記録  本文PDF(74KB)
  • 飯田市美術博物館周辺で確認した昆虫類(鱗翅目・甲虫目)  本文PDF(54KB)
  • 長野県阿智村でモンキアゲハを目撃  本文PDF(54KB)
  • 岡谷市でコロギスを記録  本文PDF(166KB)
  • おしぼら池に放したドブガイの追跡調査報告  本文PDF(166KB)

■論文要旨

 
■中央アルプス、池ノ平カールの地形  川上陽一  本文PDF(437KB)
Topography of Ikenotaira-Kar, Central Japanese Alps Yoichi Kawakami
中央アルプス中部、熊沢岳北東斜面にある池ノ平カールには標高の異なるモレーン群が分布する。これらはShimizu(1972)によって3段階のモレーンとして報告された。今回、さらにその下部の標高2430~2510m付近に今まで報告されていないモレーン群がみつかった。このことから池ノ平全域のモレーン群は、標高・形状・連続性から新たに3つのグループに分類された。
 
キーワード:池ノ平カール、モレーン、熊沢岳
 
 
■伊那谷南部、念通寺断層の毛賀沢露頭で観察された礫層の変形構造と断層運動との関係  村松武  本文PDF(494KB)
Relationship between the drag of gravel and the fault movement in the Kegasawa outcrop of the Nentuji fault, southern Ina Valley, Central Japan Takeshi Muramatsu
伊那谷断層帯、中央断層群(前縁断層)の一つである念通寺断層(川路・竜丘断層)の毛賀沢露頭には、西側の花崗岩が東側の段丘礫層の上にのし上がる南北走向の逆断層が現れている。断層下盤には変形した礫層が観察される(松島、1995)。この礫層の変形構造を明らかにし、断層運動との関係を考察するために、一つ一つの礫の姿勢を測定した。その結果、礫層の変形構造は3つの剪断帯と4つの変形帯から構成されていることが分かった。剪断帯ではすべての礫は断層面の方向へ回転し再配列していた。一方、剪断帯から派生したと推定される一つの変形帯を除くと、主断層に近い変形帯ほど礫が強く回転していることが示された。これらの各剪断帯および各変形帯で認められた礫の回転は、主断層の条線から推定される断層運動と矛盾がないことが分かった。
 
キーワード:伊那谷断層帯、念通寺断層、毛賀沢露頭、礫層の変形
 
 
■長野県喬木村上氏乗隠し洞から発見された「隠し洞球顆岩」について  久保田賀津男  本文PDF(966KB)
“Kakushi-bora ball Granite” from Kami-ujinori in Takagi Village, Nagano Prefecture Kazuo Kubota
長野県喬木村上氏乗隠し洞で採集された球顆岩(隠し洞球顆岩)の特徴を明らかにするために、91個の球顆の組成・形状・大きさ等を調べ、伊那谷で産する球顆岩と比較した。その結果、隠し洞球顆岩の球顆は他と比べて形状・大きさが多様であり、3つのタイプに分類できることが分かった。さらに、球顆の相互関係、母岩との関係から球顆の生成環境について考察した。
 
キーワード:隠し洞球顆岩、記載、喬木村、上氏乗
 
 
■中部地方領家帯、加々須累帯火成岩体中心部付近から見いだされた単斜輝石を含む細粒苦鉄質岩について  手塚恒人   本文PDF(212KB)
Finding of clinopyroxene-bearing basite within tha Kakasu zoned pluton in the Ryoke Belt, Central Japan Tuneto Tezuka
中部地方領家帯、加々須累帯火成岩体の中心部、細粒苦鉄質岩の中から単斜輝石が見出された。このことにより、加々須累帯火成岩体は、中心部から細粒単斜輝石黒雲母角閃石苦鉄質岩、細粒黒雲母角閃石苦鉄質岩(変輝緑岩)、斑状(角閃石)黒雲母片麻状花崗岩(天竜峡花崗岩)、細粒~中粒黒雲母片麻状花崗岩(上久堅花崗岩)などで構成されることが示唆された。
 
キーワード:中部地方領家帯、加々須累帯火成岩体、単斜輝石、細粒苦鉄質岩
 
 
■長野県阿智村戸沢鉱山選鉱所跡における堆積物  五味篤・村松武・佐々木勝  本文PDF(1,445KB)
Antimony-bearing ore and sediments from the Tozawa mine dressing plant site, Achi Village, Nagano Prefecture Atsushi Gomi,
Takeshi Muramatsu, Masaru Sasaki
戸沢鉱山選鉱所跡と推定される場所から発見された鉱石塊と堆積物(赤色層、黄色層、灰色層)の成分を同定した。鉱石は主に石英と、ベルチェ鉱、輝安鉱、バレンチン鉱のアンチモン鉱物からなる。赤色層は主にアンチモンガラス(三硫化アンチモンと酸化アンチモンの混合物)、ベルチェ鉱、石英、雲母類からなり、黄色層は石英、硫黄、酸化アンチモン、灰色層は石英、黒雲母、斜長石、微斜長石、バーミュキュライト、カオリンなどで、花崗岩の造岩鉱物のうちの、有色鉱物の多い部分と同定された。赤色層と黄色層は、鉱石を焙焼した焼鉱から、比重選鉱で粗酸化アンチモンを回収した残りの尾鉱であると判断される。灰色層は洪水時に堆積した花崗岩の風化生成物であると推定される。
記録によれば硫化アンチモン精鉱(Sb 50~55%)採取のために浮遊選鉱所が建設されたのが1936年であるので、この選鉱所跡は山元で粗酸化アンチモン(Sb約80%)を製造したとされる、1914~1917年頃のものであると考えられる。
 
キーワード:ベルチェ鉱、輝安鉱、完全焙焼法、アンチモンガラス、比重選鉱
 
 
■長野県阿智村春日山タングステンスカルン鉱床の産状  田中良・石山大三・水田敏夫  本文PDF(1,083KB)

Mode of occurrence of the Kasugayama tungsten skarn deposit, Achi Village, Nagano Prefecture Ryo Tanaka, Daizo Ishiyama and Toshio Mizuta
春日山鉱床のスカルンおよび鉱石鉱物の分布、鉱物組合せ、主要鉱物のEPMAによる化学組成について報告し、鉱床生成時の温度・硫黄分圧について推定し、関連する火成活動について考察する。
 
キーワード:阿智村、春日山鉱床、スカルン鉱床、タングステン、灰重石
 
 
■長野県大鹿村におけるニホンジカによる森林植生の衰退  小山泰弘・山内仁人・白石立  本文PDF(523KB)
Forest vegetation decline by sika deer in Oshika village Yasuhiro Koyama, Masato Yamanouchi and Ryu Shiraishi
ニホンジカによる森林植生への影響を検討するため、大鹿村の鹿塩地区のカラマツ林で、シカの個体数が増加しはじめた5年前と現在の植生を比較するとともに、村内の現況を調査した。その結果、カラマツ林では5年前には見られなかったカラマツ立木への角こすりや幹剥皮被害が確認され、ニシキギやミズナラ,ツノハシバミなどの低木がシカの食害で枯死した。加えて林床に生育していたホタルブクロ、ヨモギ、ハリギリ、ヤマウルシなどの植物が失われた。一方大鹿村内をみると、シカの個体数が多いといわれる南部の池ノ平地区では、ヒノキやアカマツ,カラマツなどの造林木だけでなく、ミズナラやミヤマザクラなどほぼすべての樹木が被害を受けて枯死するものも見られた。こうした地域ではササ類をはじめとした下層植生がほとんど認められず、センブリやトリカブトなどの不嗜好植物だけがわずかに残された危機的状況になっていた。
 
キーワード:ニホンジカ、林業被害、大鹿村、植生変化
 
 
■信州の植物フェノロジーの研究Ⅸ:飯田市と高森町の開花フェノロジーと虫媒花の開花種類数の季節的変化について  小林正明  本文PDF(1,835KB)
Phenological studies of plants in Nagano Prefecture Ⅸ: A study of the efflorescence phenology and seasonal change of insect pollination flower in Iida City and Takamori Town, Nagano Prefecture, Japan Masaaki Kobayashi

長野県飯田市と高森町の標高390m~600mの地域で1994年に被子植物の開花フェノロジーの調査をした。調査地域は本州中部の暖温帯上部に属する地域であった。調査したデータ数は6、774であり、639種の植物を記録したが、開花日と開花期間を調べることができたのは495種であった。この中には在来種の他に約50%の帰化種や外国産園芸種などの外来種が含まれていた。
早く咲く花は2月上旬から咲き、遅いものは。10月上旬まで咲いていて、春から秋まで常に花が咲いていた。開花全種の旬間別開花種類数は5月中下旬に157種、6月下旬に98種、8月上旬に134種とフタコブラクダ型だった。昆虫に蜜や花粉を提供している種類も約半数が外来種であり、その中の外来種の開花種類数は春から秋にかけてあまり変化していなかった。年間の開花種類数の変化では早春と晩秋で外来種の割合が春、夏、秋に咲いている種類よりも多かった。昆虫に蜜や花粉を提供している種類で在来種の旬間別の開花している種類数は5月中下旬に49種、6月下旬に25種、8月上旬に51種で同じくフタコブラクダ型であった。従って6月下旬に開花している種数の減少は在来の植物の開花数が少なくなったためであった。このフタコブラクダ型となる原因をさぐるために在来種の開花種を生活型別に分けてみると5月中下旬の開花種類数が多いときの生活型は低木と多年草であった。6月下旬の開花数が少ないときは多年草が主に開花していた。8月上旬の開花種類数が多いときは多年草が多かった。従ってフタコブラクダ型となる開花種類数の変化は多年草の開花数の年間の変化に5月中下旬に低木が加わるためであった。
 
キーワード:開花フェノロジー、虫媒花、飯田市、高森町、在来種
 
 
■長野県飯田市において捕獲・放獣されたツキノワグマの行動域  菅原寛  本文PDF(863KB)

Home range of Asiatic black bears captured and released around Iida city in Nagano prefecture Hiroshi Sugawara

2003年7月24日に飯田市上郷の果樹園でツキノワグマ(Ursus thibetanus)の幼獣がイノシシ用罠に捕獲された。これは錯誤捕獲だったため、捕獲地点より約4km離れた奥山へ放獣した。付近にいた母クマも捕獲し同様に放獣した(名前:ヨネコ)。その際、母クマに発信機を装着し行動を追跡する『テレメトリー調査』を行った。また、2003年7月26日に同じ場所でツキノワグマのメスが同様に錯誤捕獲されたため、ヨネコと同様、発信機を装着し、同様の調査を行った(名前:マイ)。ヨネコは一時的に奥山へ向かうが、その後集落の果樹園周辺に移動した。ヨネコの脱落した発信機を回収した地点は荒廃したナシ園であった。このことから、当個体は意図的に果樹園や集落のある環境を好んで選択していたことがうかがえた。マイは里近くの山腹を中心に行動していた。調査中は果樹園の接近があまりみられなかった。マイの脱落した発信機を回収した地点は周りを針葉樹に囲まれた小規模な広葉樹林であった。果樹園との関係は不明であった。今後はデータ数を多くし、下伊那地方のクマの行動域を明らかにしていきたい。また、マイは調査中果樹園へは行かなかったが、夜の行動が不明であったため、夜間調査も行う必要性がある。
 
キーワード:野底川、ツキノワグマ、テレメトリー調査、行動域
 
 
■長野県下伊那地域におけるニホンイシガメMauremys japonicaの記録  木下進  本文PDF(305KB)

Some records of Mauremys japonica(Testudines) from southern part of Inadani, Nagano Prefecture Shin Kinoshita
飯田市を含む下伊那地域において1994年から2003年までに情報および直接確認によって得たニホンイシガメの分布記録についてまとめた。この10年間の間に14件15個体のニホンイシガメを確認した。
キーワード:ニホンイシガメ、長野県、下伊那地域、分布