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受賞作品小論文

撮影テーマ「Nature-mindー命の瞬きー」は、野山で生きる虫たちの生活の中の、命が尽きゆく姿や生殖行動の情景を映しとめ、命の儚さと生命の連続性を考慮し構成したものです。

人の一生と比べると、小さな生き物の命は儚く、その一生も星の瞬きのような一瞬の出来事に思われます。しかし、一瞬の出来事でも、永遠の時間の流れの中で「人の一生」「星の一生」と同じ時間軸の中を生き、宇宙そのものを構成している一部であることに変わりありません。

一般に死にゆく姿や生殖行動の情景は、敬遠されがちな光景でありますが、生命の尊厳と儚さを伝えるためには避ける事の出来ない大切な事象だと思います。

生命は種を保存するために生殖行動を行い、他の生命を捕食し糧として生きている。しかし彼らもやがて寿命が尽きたり、別の生物に捕食されたりして死んで行く。そして自身の遺伝子を残す、残さないに関わらず、すべての生物の亡骸は微小なバクテリアなどによって分解され土に還り、やがて新たな生命の礎となり、生命の連鎖が繰り返されていく。

それは、星の一生で年老いた星が宇宙空間に次なる星の誕生のため超新星爆発を起こし、自らの欠片を放出する事と同じ、永遠の連鎖に通じるものに感じられます。昆虫の写真に星空の写真を織り交ぜたのは、すべての生命が宇宙の一部であり、そんな生命の永遠の連鎖と命の儚さを意図したものです。

最後に、生命について考える時、害虫とされる昆虫も含め、すべてのの生物が地球という生命体をかたちづくり、宇宙という世界を構成するという存在意義があり、生物種全体を見渡した環境の維持と保護というのが本来大切な理念なのではないかと感じつつ自然を見つめ作品創りに取り組んでいます。

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選評

地球上に生きるあらゆる生物は、それぞれの種族の間で生殖をくりかえし、子孫を残している。

その行動は、生物がこの世に出現して以来連綿として続いている。

作者は、われわれ人間の住む地球上に、さまざまな生命が生まれ、生殖し、やがて死に大地へ帰ってゆく。仏教でいう「転廻転生」の世界を写真化し、20枚の組写真にして構成している。

ストーリーは宇宙を思わせる地球星誕生を想像させるプロローグから始まり、昆虫の死骸、朽ちゆく光景、昆虫を食虫植物が捕らえる情景、蜘蛛の巣にかかるトンボ、中でも生殖行為中の昆虫、その堂々ととした態度に微笑さえ感ずるのである。そして色彩的にも美しい背景の中に写し出し、ドラマを写し出している。最後をきらめく星の見える大地でストーリーを閉じている。個々の写真の表現がすばらしく、昆虫を主役にしていながら地球上の生物全体を物語っている。

今年は生物多様性条約第10回締約国会議が名古屋で開催される年である。その生物多様性を考えさせるすばらしい作品である。

選考委員 田沼武能

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