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芳賀日出男さんの写真はあまりにも有名である。

しかし、祭りの写真というと、えてして軽く見られがちである。

それは観光化された祭りからくる印象であり、芳賀さんのそれは全く違っている。氏の祭り、行事は民俗的な裏づけのもとに写されており、学術的にも貴重なものである。

芳賀さんと民俗学とのつながりは学生時代に国文学者折田信夫の「神は季節の移り目に遠くから訪れ、村人の前に姿をあらわします」という講義を受けた時に始まる。もし本当なら、写真に納めることができるかもしれない。氏はその一つ一つを写真で明らかにしていったのである。

今回授賞対象となった『日本の民俗』は上下あわせて560頁にわたる膨大なもので上巻『祭りと芸能』、下巻『暮らしと生業(なりわい)』の2つで構成されている。

上巻の『祭りと芸能』は民俗学でいう「ハレ」の記録である。「御幣」から始まり「郷土芸能の世界」に終わる17項目からなっている。下巻の『暮らしと生業』は民俗学でいう「ハレの生活」である。「正月」「盆行事」「人生儀礼」など13項目でしめられている。

撮影にとりかかったのが1950年で撮影終了を行ったのが96年というから、まさに半世紀にわたるライフワークである。

私も取材先で何度か氏にお会いしているが、学術書から学んだものを現地の人たちからの話を加え事前によく調査している。各地に新しい協力者が増え、取材の輪が広がっていく。そんな人柄がこの大作を作りあげたのである。上巻のあとがきに「民俗のしぶとさ」について述べているが芳賀さん自身のしぶとさもすごいものがある。なっとくいかなければ何回でもそこに通う。16年間も通い続けたところもあるという。

前記の如く氏はよく研究し、調べてからの取材であるからカメラワークもしっかりしており、その行事の特徴を的確にとらえており、加えて写真表現に対する知識も豊かで鋭い感性の持ち主であるから記録と芸術の両面を兼ねそなえている。また、そこに書かれているそれぞれのキャプションも貴重な資料となっており、この著作は日本民族の記録として歴史に残る大作となるであろう。

上記の理由で第1回の賞にまことにふさわしいものであり、藤本四八先生と合議の上決定した。

選考委員 田沼武能

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