企画展準備日誌 その11 スンシウヘウタンボク
企画展 高山植物と高山昆虫からたどる
南アルプス博物学の120年
会期:2025年6月7日(土)〜8月31日(日)
明治・大正時代の学術登山の記録を追いかけていくと、河野齢蔵という名前が出てきます。
長野県内で教職につく傍ら、日本アルプスや北海道、樺太の山を歩いて植物を研究した人物で、「高山研究」(岩波書店)や「日本高山植物図説」(朋文堂)など著書もあります。
河野齢蔵は、山岳(日本山岳会会誌)10巻2号(1915年/大正4年)に「塩見岳登山記」という一文を寄せています。その中に次のような文章があります。
「大正二年八月、余が同志数名と共に、赤石の荒川岳に登って下山する時、案内者に道を誤られて、大井川の上流西俣に迷い込んで一泊して、翌日、大河原に出やうとして、中俣の渓谷を遡って、塩見岳の山麓を巡れる際に於いて、新種スンシウヘウタンボク Lonicera watanabeana Makino を採集した。」
この「スンシウヘウタンボク」とはいかなる植物だろうと調べてみたところ、現在ではエゾヒョウタンボクとされている種で、図鑑によってはその変種「スルガヒョウタンボク」とされている植物のことでした。
ヒョウタンボクは普段あまり意識していない植物なのですが、どこかで撮影していなかったかなぁと写真フォルダーをあちこち探してみたところ、南アルプス山麓で撮影したものが見つかりました↓
これがスンシウヘウタンボク(スルガヒョウタンボク)です!
本州ではかなり稀な植物のようで、南アルプスを特徴づける種のひとつといっていいと思います。
河野齢蔵は、スルガヒョウタンボクを採集したときにコゴメヒョウタンボクも採集しており、こちらには konoi という名前が牧野富太郎によってつけられて、今でも変種名として使われています。
展示に向けてヒョウタンボク類を調べていたら、だんだん興味が湧いてきました。
調べれば調べるほど、芋づる式に興味があちこちへ延びていくのが、博物学の面白さですね。
これからフィールドを歩くときは、ヒョウタンボクも意識して探してみたいと思います。
今日は展覧会のフライヤーが納品されました。
明日からいよいよ展示室づくりが始まります。
展覧会スタートまであと18日!
四方圭一郎
ブログ 今日の美博