企画展準備日誌 その9 ホッキョクモンヤガ
企画展 高山植物と高山昆虫からたどる
南アルプス博物学の120年
会期:2025年6月7日(土)〜8月31日(日)
「南アルプスの高山帯には北極と共通する自然がある」と事あるごとに吹聴してきましたが、ホッキョクモンヤガはそんな「北極」の名前を冠した高山蛾です。
一見地味に見えますが、新鮮な個体の翅(はね)は銀色に輝き、息を呑むほど美しい蛾でもあります。
高山蛾に興味を持ってからもホッキョクモンヤガにはなかなか巡り会えず、僕にとって憧れの高山蛾の一つでした。
しかし2018年は当たり年だったようで、ライトトラップにはメスを含む多数の個体が飛来し、日中にも花に吸蜜に来た個体や飛翔する個体をたくさん見ることができました。
そこで、過去の調査データをかき集めて集計してみました。
すると、奇数年にくらべ偶数年の記録が圧倒的に多い事がわかりました。
北海道では、成虫になるまでに2年かかることが報告されています。
偶数年に産まれた卵は、翌年は羽化せず、次の偶数年に現れることになります。
2016年、2017年、2018年の調査で確認したホッキョクモンヤガの個体数を示したのが右下のグラフです。
奇数年に全く出現しないわけではないようですが、この3年間の調査からは偶数年偏り発生説が有力な気がしてきます。
では、2020年、2022年、2024年はどうだったのでしょうか?
結果は、2020年ゼロ、2022年1個体、2024年若干個体 でした。
調査時期や場所の問題もあるでしょうから単純に比較できませんが、単純に偶数年ごとに大発生するわけではないようです。
ちなみに2019年、2021年、2023年はゼロでした。
高山蛾の分布はかなり正確に把握されてきましたが、生態面はまだわからないことだらけです。
何年も続けて調査しないと見えてこないことも多そうです。
高山蛾の沼は、あぁ深い…。
四方圭一郎
ブログ 今日の美博