企画展準備日誌 その6 コケモモマガリガ
企画展 高山植物と高山昆虫からたどる
南アルプス博物学の120年
会期:2025年6月7日(土)〜8月31日(日)
コケモモマガリガは、翅(はね)を広げた幅(開張)が1cmくらいの小さな蛾です。
模様もほとんどなくて、はっきり言って地味な虫です↓。
しかし、この蛾は2023年の南アルプス調査で得られるまで本州からは全く記録がなく、北海道の高山帯でしか見つかっていなかった種類でした。
2023年の調査は、南アルプス最奥の山小屋「熊ノ平小屋」をベースキャンプにして行いました。
途中で1泊しないとたどり着けないほど遠い場所なのですが、それだけに世俗界から隔たった場所とも言えます。
コケモモマガリガを採集したのは、北岳まで高山植物の撮影に足を伸ばした日のことでした。
朝5時半にベースキャンプのテント場を出発し、三峰岳を超え間ノ岳へ伸びる稜線の岩場を歩いていた時のことで、午前6時半ごろだったと思います。
登山道の両脇のハイマツの枝先を、小さな黒っぽい蛾がいくつもいくつも舞い始めたのです。
小さな蛾の知識はあまりなかったのですが、これはちょっと面白そうな蛾だと直感し、そのいくつかを採集して、小さな小瓶に入れて持ち帰りました。
下山後、博物館の研究室で標本にして交尾器を解剖して調べてみたところ、本州からこれまで記録がなかったコケモモマガリガであることがわかりました。
小さな地味な発見ですが、南アルプスの生物相がひとつ解明されたことになります。
私たちが調査しているのは、目立たない小さな地味な虫たちです。しかし博物学の神髄は、地味や派手、人が好む好まない、人間の役に立つ役に立たないなど直接的な利害と無関係の、ありのままの自然の姿を記録として残すことです。このような積み重ねが現在の自然科学の基礎になっていることは間違いありません。
企画展「南アルプス博物学の120年」に、ぜひお出かけください!
企画展担当:四方圭一郎
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