「南アルプス博物学の120年」企画展準備日誌 その3

企画展 高山植物と高山昆虫からたどる
南アルプス博物学の120年

会期:2025年6月7日(土)〜8月31日(日)

南アルプスの高山帯で、博物学調査が行われるようになってから約120年。
現在、飯田市美術博物館で行っている高山蛾の調査も、博物学的登山の延長線上に位置づけることができます。

登山道や山小屋が整備され、登山道具もかつてと比べ物にならないくらい進化していますが、それでも高山帯まで調査道具を背負って登っていかなければならないことは、今も昔も変わりません。

そんな現代の調査でも、地味ですが興味深い事実が明らかになってきています。
今回は、その一つを紹介しましょう。

南アルプス固有種の高山蛾で、タカネツトガという種がいます。
他の山域では全く見つかっておらず、南アルプスの高山を代表する昆虫の一つです。

サイズは15mmくらいの小さな蛾で、1958年に新種として記載されました。
こんな蛾です↓

この蛾は南アルプスの北部(北岳や間ノ岳)や中部(塩見岳や荒川岳)あたりでは個体数も多くよく見られますが、南部(上河内岳や茶臼岳)では、何度調査をしても見つかりませんでした。どうも分布南限が聖岳の南斜面にあって、そこより南側の高山帯には分布していないようなのです。

翅(はね)があって飛んで移動できる昆虫なのにとても不思議な気がしますが、よく調べられている高山チョウでも同じような例があります。
なにか我々が気がつかない障壁があるのかもしれませんし、移動分散の能力も思っている以上に小さいのかもしれません。

 

企画展示では、こんなふうに現代の博物学調査でわかってきた事柄も、パネルや標本でわかりやすく紹介していきます。

企画展担当 四方圭一郎

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