【春草展示第35期】ミニ解説③《高士訪友図》

菱田春草記念室 第35期展示 墨の情趣-春草の水墨表現-の展示を開催しています。展示中の作品から1点紹介します。


菱田春草《高士訪友図》
明治41年(1908)頃 本館蔵

本作は、ロバに乗って、遥か山の上の楼閣に住む友人を訪ねる高士の様子を描いています。装飾性を重視した画風に向かう晩年の作。明瞭な墨彩と巧みな構成で描いています。稜線から頭をみせる楼閣によって、高士のすすむ遥かな道のりが伝わります。

①筆墨のいろいろ
春草がどのように筆を運んだのか、作品にあらわれた筆致からみることができます。様々な画風を経て描法を体得した晩年の春草がみせる、幅広い水墨表現があらわれています。近景は、側筆(寝かせた筆)を用いて、払うような筆致で峻厳な岩肌を描きます。中景の山では、筆先を置く点の表現や筆のストロークを見せる描き方によって、山肌の様子を描いています。山の向こうにみえる楼閣は、くっきりとした線で形をとらえ、シンプルにはっきりと描いています。遠景にかすむ山は、淡墨の色面をぼかして描きます。また、ぼかしと描かない余白をいかして霧めいた山道をあらわしています。

②墨の色彩
明治30年代の朦朧体期は、具墨(混色した墨)を用いることも多かったため、墨のグラデーションで描いた画面はやや混濁していました。40年代にすすむと、本作のように墨のみの色彩で描き、画面は明瞭になっています。
また、近景は濃い墨を、遠景にいく程淡い墨を用いることで、奥行きを描き出しています。これは空気遠近法の表現を取り入れたものでしょう。

③画面の構成
稜線を交互に排して、画面を近景・中景・遠景の3つに分割しています。明快な構図をとっているのが特徴です。
近景を低い位置にし、高士を小さく描くことで、この景色の雄大さをあらわしています。余白を用いて霧を表現することで、神秘的かつ深い空間の広がりも描いています。
また、中景の向こうに少し頭を見せる楼閣によって、高士が進むはるかな道のりが伝わります。

菱田春草記念室 常設展示 第35期 墨の情趣-春草の水墨表現-は7月24日まで。ぜひご覧ください。

(菱田春草記念室担当)

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