▲目次へ戻る
■楡沢山〜坊主岳


■国の天然記念物、蛇石

■大小の地すべり移動体

■クリンソウ咲く湧水地

■ササの海と非対称な植生配置

■坊主岳のハイマツ

■唐沢へ下降する尾根

 辰野町横川の蛇石から岩尾沢支線林道を利用して、楡沢山に登り、坊主岳までの稜線を歩いた。帰りは坊主岳南の主稜線から東へ降りる尾根をたどり、廃道となった唐沢林道、さらに横川林道を下って蛇石にもどった。

 林道以外のルートは、ところどころで踏み跡があるが、ほとんど道はない。しかも主稜線付近は深いササに覆われているので、地形図、高度計、GPSなどで現在地をよく確認しながら歩く必要がある。


▲楡沢山−坊主岳のマップ(カシミール3Dを利用)
 赤線はGPSのトラックデータ。

■国の天然記念物、蛇石

 横川川河床に、蛇石と呼ばれる景勝地がある。これは、泥岩中に貫入している厚さ40cmほどの閃緑岩の岩脈だ。差別侵食によって河床から岩脈の部分が突きだしている。面白いのは、岩脈を横断するように、多数の石英脈がみられることだ。

 岩脈も石英脈も、もとはマグマであったり、石英分がとけ込んだ熱水だった。だから、もともとそこにあった母岩に割れ目ができて、よそからその隙間に入り込んでできた岩石だ。隙間をつくる割れ目は両側の母岩を外へ引っ張ればできる。実際には割れ目の伸びの方向から強く押せば、その力と直行する方向、すなわち割れ目を引っ張る力ができる。

 このようにみると、岩脈や石英脈は、かつて大地に働いた特定の力によってできたものだ。だから、逆に、岩脈や石英脈から、過去、この地に働いた力を復元することができるのだ。岩脈や石英脈から、地下で起こった現象を想像してみるのも面白いだろう。

▲横川川河床の蛇石
▲戻る
▼次へ

■大小の地すべり移動体

 ゲートをすぎて横川林道に入ると、本流にかかる大きな堰堤がみえてくる。対岸には大洞谷が合流してくる。この大洞谷下流の左岸側にはやや規模の大きな滑落崖と地すべり移動体がある。現在は緑に覆われているが、尾根の上の方は馬蹄形にえぐれていて、その下には段丘状の緩斜面がみえる。地図をみると、大小4つの滑落崖らしき地形が確認できる。かなり昔の崩壊地形なのだろう。

 しばらく横川林道をさかのぼり瀬戸沢をこえると、右から主稜線方向へ伸びる林道が現れる。この林道は上部で二俣となり、右(北)側へ伸びる林道が岩尾沢支線林道だ。途中の林道沿いでは、表層すべりで堆積した土砂や球状風化した砂岩、スレート劈開の美しい泥岩などを見ることができる。

 林道終点の右(北)側には、楡沢山から下ってきた明瞭な尾根がある。尾根筋は小さな踏み跡があり、ササもほとんどないので、楡沢山に登るには一番良いルートだろう。山頂付近は線状凹地や小段地形が発達した緩斜面となりササも深くなるので、地図で現在地を確認しながら主稜線をたどることにしたい。

▲大洞谷左岸の崩壊跡
▲表層すべりによって落ちてきた土砂
▲戻る
▼次へ

■クリンソウ咲く湧水地

 楡沢山を下り鞍部を過ぎると、左側に横川川支流の岩尾沢の源流が現れる。ササが茂った土壌が1mほどはがれているだけの小さな侵食崖があって、この下からわずかな水が流れでている。湧水地付近は、傾斜が緩やかなので、拳サイズの砂岩がゴロゴロしている小さな湿地ができている。ここにはクリンソウ群落があるので、6月中旬には華やかな景色が拝めるだろう。

▲湧水地に咲くクリンソウ
▲戻る
▼次へ

■ササの海と非対称な植生配置

 ツガやモミの自然林は下草が少ないので歩きやすいが、カラマツ植林地やダケカンバ林はササがよく茂っているので通過に時間がかかってしまう。とくに背丈もあるようなササ原を登るときはたいへんだ。ササ原の中にもぐって左右にササをうまく漕がないと、上ろうとしても跳ね返されてしまう。

 坊主岳北側の1950mの稜線まで登ると、風倒木が多くなり、樹木が疎らとなって一面ササの海が広がるようになる。ササ原は稜線の西側にできている。東側にはササは密生していても高木が繁っている。このような非対称な植生配置は、強い西風によってできたのだろう。

▲北側からみたササ原と坊主岳
▲戻る
▼次へ

■坊主岳のハイマツ

 坊主岳山頂には三等三角点があり、すぐその脇にには三体の石像物がおかれている。「秋葉大権現」は明治10年の銘がある。

 山頂付近は灌木の混じる背の低いササ原となっていて、展望も良くて気持ちの良いところだ。天気が良ければ西に御岳、南東には鋭く尖った佛谷と、その右肩に経ヶ岳が見える。南には中央アルプス駒ヶ岳山塊が見えるはずだが、逆光のためシルエットになっている。

 山頂から南に50mほど下った南東斜面には、十数株のハイマツ群落がササ原の中に埋もれるようにして遺存している。強い西風によって他の高木が入り込めなかったため、残っているのだろう。しかし、現在急速に進む温暖化によって、次の世代まで生き残ることは難しいかもしれない。

▲坊主岳の山頂
▲坊主岳南東斜面のハイマツ
▲戻る
▼次へ

■唐沢へ下降する尾根

 奈良井ダムから登ってくる道から離れ、稜線をやや東寄りに南下していくと、標高1780m付近で東へ張り出す小さな尾根がでてくる。稜線上には坊主岳と佛谷方面を示すプレートがある。ここは、横川川上流の唐沢谷への下降点だ。ここから唐沢谷まで随所に赤ペンキや赤テープがあるので、一つ一つ探しながら下降することができる。

 このルートは、辰野町の方々によって2003年に開かれたらしいが、すでに道は不明瞭となっているので、地形を読みながら尾根を忠実に降りるようにしたい。  

▲坊主岳からみた佛谷への稜線
 手前のササ原から左へ張り出す尾根を下る。
▲目次へ戻る