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■権兵衛峠〜小黒川


■木曽へ米を運んだ権兵衛街道

歴史を感じさせる権兵衛峠

■峠周辺の自然林とジャンボカラマツ

■古い道標とステンレスプレート

■ササと針葉樹のせめぎあい

■稜線から桂木場へ下りる分岐点

 

 小沢川上流の北沢から権兵衛峠へ登り、稜線を南下して小黒川下降点から鳩吹林道終点まで歩いた。ここからデポしておいた自転車で、北沢の登山口までもどった。

 権兵衛峠へ登る道は、2004年の台風23号の大雨で2〜3ヶ所崩れていたが、いずれも問題なく通ることができる。峠からしばらくの間は遊歩道が整備されているが、ジャンボカラマツから南は小さな踏み跡程度となり、ところどころで深いササ原を漕がなくてはならない。二重山稜や尾根が屈曲しているところでは、地図で現在地を確認しながら稜線をたどる必要がある。 


▲権兵衛峠−小黒川のマップ(カシミール3Dを利用)
 赤線はGPSのトラックデータ。

■木曽へ米を運んだ権兵衛街道

 北沢をまたぐ国道のすぐ下に権兵衛街道への入り口がある。この街道は、元禄時代に木曽の古畑権兵衛によって整備された道で、木曽谷と伊那谷を結ぶ歴史の道だ。伊那谷からは米や干し柿などが運ばれ、木曽谷からは漆器や曲げ物などが運ばれたという。多いときには1000頭もの牛や馬が往来したらしい。実際に歩いてみると、無理に高度を稼ぐことなく、傾斜が一定していて、たいへん歩きやすい道だ。

 足下にある石は、ほとんど黒っぽい粘板岩だ。熱変成を受けて小さな黒雲母ができているため、陽にかざすとキラキラする。ときどき入ってくる真っ白な帯は石英脈で、熱水(温泉水)が通過した跡だ。この岩石は平行に割れやすいため、崩れやすい性質を持つ。岩盤がむき出しになっているところは、何度も修復してきたのだろう。 

▲歩きやすく気持ちの良い権兵衛街道
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■歴史を感じさせる権兵衛峠

 峠には分水界の碑や古畑権兵衛の顕彰碑など多くの碑が立っている。水場もあって、休息するには最高の場所だ。

 興味深いのは日本海側へ流れる奈良井川の水を、峠を越えて太平洋側へ運んだ木曽山用水の跡だ。これは、伊那市西箕輪の上戸地区の人たちが、明治5〜6年に開削したもので、延長12kmにも及ぶという。上戸地区は、近くを流れる小沢川(北沢)に水利権がなかったため、農業用水を木曽へ求めたわけだ。

 現在では、峠のずっと手前のトンネルで伊那側の小沢川(南沢)へ水を落としている。上戸の人たちは北沢から取水しているが、木曽から運ぶ水量と同じにするために、北沢の取水口と、現木曽山用水のトンネルの入口と出口に水桝を設けて、関係者同士で年一度水量をチェックしているという。

 水を求めて苦労してきた農民たちの思いと、その知恵に驚いてしまう。

▲権兵衛峠の水場
▲歩道沿いの窪みが木曽山用水跡
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■峠周辺の自然林とジャンボカラマツ

 権兵衛峠から遊歩道に沿って南へ登っていくと、針葉樹と広葉樹が混じり合う、みごとな自然林が現れる。遊歩道の終点には、ひときわ大きなカラマツが現れる。林野庁によって選定された「森の巨人たち100選」の一つ、ジャンボカラマツだ。説明板によると、樹高34m、幹周4.08mとされている。巨木が単木でなく、自然林とセットで保存されているのは、とても良いと思う。

 権兵衛峠からこの保存林の間は、境峠断層という活断層が北西−南東方向に走っている。権兵衛トンネルはこの断層のすぐ北側をくり抜いているが、たいへんな難工事だったという。地表においても、活断層にそった地域は崩れやすい体質をもっている。今後とも、あまり手をかけないで、この豊かな自然林を残すべきだろう。

▲樹齢250年のジャンボカラマツ
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■古い道標とステンレスプレート

 ジャンボカラマツからもどって、ササに覆われた稜線の小さな踏み跡をたどる。ササが高く繁っているところで悪戦苦闘していると、だれも通ったことのない、初めての場所のような感じがしてくる。そんなのときに、急にササが低くなり、境界杭や古い道標などの人工物をみると、ホッとしてしまう。

 ここには、京都みさやま山の会のステンレスプレートが地面におかれていた。プレートには「NIPPON ZYUDAN BUNSUIRE ARUKI」 と刻まれていた。

▲境界杭のそばに落ちていた古い道標
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■ササと針葉樹のせめぎあい

 稜線には灌木の中に猛烈にササが繁っている場所と、コメツガやウラジロモミなどの針葉樹主体の自然林となっている場所がある。後者の自然林の中は光が十分差し込まないので、ササが生育できないのだろう。

 ササ原と自然林がみごとな境界をなしている場所がある。こんな秩序を見せている場所でも、お互いすきあらば進入しようとせめぎ合っている場所にちがいない。時計の針を早く回して、どんな動きがあるのか見てみたいものだ。

▲針葉樹の森に進入できないササ
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■稜線から桂木場へ下りる分岐点

 小黒川の桂木場へ下りる登山道の合流点は、馬返しと呼ばれている。ここまでくれば、道に迷うことはない。

 ここには、歩いてきた道の方向を示す権兵衛峠への標識があった。しかし、2〜300mも行けば、踏み跡はササ藪に埋もれてほとんど消えてしまっている。ここから権兵衛峠まで歩くには、地形から現在地を読むことができ、ササ藪に負けない体力が必要となるだろう。

▲馬返しにあった権兵衛峠への標識
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