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■パリ国立自然史博物館


■200年の歴史をもつ自然史博物館

■とてつもなく大きな自然史博物館

■活発な教育活動

■すべての展示をつくる技術陣

■標本の多さに圧倒された古生物館

■生まれ変わる生物館

■200年の歴史をもつ自然史博物館

 国立自然史博物館はパリの植物園内にあって、古生物館や鉱物館・動物館・さまざまな研究棟から成り立っている。最初に情報館(ビュッフォンの家)で館長から概要説明をしてもらう。
 歴史をたどると16世紀まで遡るという。このころ王宮がシテ島(セーヌ川の中州)にあって、ここに薬草が植えられて小さな植物園ができた。その後、場所を現在のところに移して、ルイ13世の時代(1635年)にビュッフォンが現在のようなりっぱな植物園にしたという。博物館は @自然科学研究 A資料の収集・保管 B知識の普及 を目的に1793年にオープン。ちょうど200年になる。

▲ビュッフォンの家
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■とてつもなく大きな自然史博物館

 研究所は物理・化学・分子生物学・植物・動物・土壌・鉱物・古生物・生態学・人間生態学部門などに分かれ、全部で26もあるという。建物はこの植物園内の他に、シャイヨー宮などにもある。また植物園の他、4つの動物園を管理しているという。全部で職員が1800人、その内専属の研究者が500人もいる。植物園内の展示棟・キュビエやビュッフォン、ベクレルの家など公開施設だけでも10ぐらいありそうだ。とにかく規模が大きい。
  研究者が非常に多いことからどんな研究をしているのか、という質問に対して環境問題に関する研究が多いという。研究者の仕事は半分が個人研究で、半分が資料の保存・収集・普及等に関する博物館活動に関することだという。研究者の半数が大学でも講義をしているというほどだから、博物館研究者の地位は非常に高い。
▲広大な敷地と博物館群
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■活発な教育活動

 博物館の活動は研究だけではない。具体的な内容まで分からなかったが、小中学校や高校、さらに教師に対しての教育プログラムも行っている。実際に展示場で生徒がノートをとりながら見学している場面にであった。観覧者数は動物園80万人、植物園80万人、博物館50万人ほどで全体で約200万人という。その内学校の授業で博物館を見学するのは約25万人というから、学校教育との連携も活発といえる。教師に対しての講習は3日コースで、毎年1000人ほどが受講している。
▲見学中の子どもたち
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■すべての展示をつくる技術陣

  職員の体制については、それぞれの部門で異なるが、100人ほど働いている動物館(現在展示更新中)では、研究者が20人でその他は管理・技術者だという。後ほどその展示更新中の建物を見学した際、そこで展示の設置や展示ケースなどの環境整備作業をしている技術者は20人以上、すべて職員とのことだった。この博物館では技術者の役割はたいへん高い。
▲古生物館の標本製作室
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■標本の多さに圧倒された古生物館

  一通りの概要を把握した後、まず古生物館を見学した。この建物は1898年に建てられ、キュビエの研究していた脊椎動物や化石の資料が大半をしめる。1階の展示は、100年前とほとんど変わっていないという。よく常設展示は10年で更新というが、それは模型や安易な解釈などであって実物資料やきちんとした研究というものは100年たっても十分見応えがあるというわけだ。骨格が所狭しと並んでいる様子は迫力抜群である。2階は脊椎動物の化石が中心で、進化学上重要な化石が並んでいる。全体に展示法に新しさは見あたらないが、膨大な資料が並んでいるので分類学的な勉強をするにはたいへん効果的だ。
 展示を大急ぎで見学した後、古生物館の裏方を見て回った。100年前の建物でありながら、標本作成室は結構充実している。ただし部屋はあまり大きくない。化石クリーニングやレプリカ作成などを行う15畳くらいの部屋が4つほどあって、7〜8人ほどの技術者?が働いていた。その内大学の実習生が2人いて、大型化石のクリーニングをしていた。
▲標本を製作する設備
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■生まれ変わる生物館

  次に展示更新中の生物館を見学した。延べ床面積約15000uの建物を4億フラン(80億円)で改装中とのこと。総予算の半分が建物の改装で、残りの半分が電気と展示更新に当てている。例によって外壁は19世紀のままで、内部をすっぽりと新しくしている。内部においても木部などはそのまま利用するなど、昔の精神を残しながら、空調・電気・コンピューターを取り入れているとのこと。すなわち従来通り資料を効果的に展示することをベースにして、照明は光ファイバーを使ったり、オーディオ・ビジュアル、データバンクなども補助的に利用するという考え方である。オルセーやルーブル美術館のリフレッシュと同じパリ・ルネッサンスの一環なのだろう。
 この展示更新に向けて、研究者・技術者の他に教育学者や心理学者なども加わって協議会をつくり、展示設計、見学のしかたなどを研究したという。1986年に原案をたてて、1989年に協議会設置、1994年にオープン予定という8年ごしの事業だ。展示テーマは海から陸への生物進化となった。対象は子どもから一般ということで、教育的な配慮がなされている。さらに子どもに対しては研究の面白味がわかるように特別な実験室が用意してあって、ここで授業ができるようにするという。
 しかし、この考えに対してオープン間際の今でも反対意見があるという。展示のレベルを下げずに大学生や研究者向けの展示にすべきという意見だ。フランスはドイツと違って大学博物館が貧弱なため、国立博物館を研究者向けの展示にしたいということらしい。貴重な資料がぎっしり集まっているだけに、いろいろな方面から期待がかかるというわけだ。最上階はそのため、研究者向けの展示になるかも知れないという。自然史博物館開館200年目の新しい試みに注目したい。

▲生物館の外観
▲展示製作の様子
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