菱田春草 「蓬莱山(双幅)」  明治43年(1910) 絹本著色 各幅95.5×35.0p
 蓬莱山とは中国の伝説上の神山である。渤海のはるか東方にあって、玉や金銀の宮殿が建ち、飛天や仙人が住まう霊地であるとされている。古来より神仙思想、あるいは吉祥の画題として用いられ、海上の山容に松竹梅や鶴亀が添えられ、楼閣や仙人が配される構図をとる。古来より幾多の作家によって描かれた画題である。
 春草の手掛ける本図は双幅の作品となる。右幅は伸屹立する岩塊を描いて蓬莱の山容を示し、対する左幅には海上に伸びる洲浜を描いて日輪を配する。また両幅ともに松と鶴とが添えられており、蓬莱の持つ神性を穏やかな画面の中に描写している。