菱田春草 「布袋之図」  明治43年(1910) 絹本著色 102.0× 39.2p
 「布袋」は中国・古代の後梁時代の高僧で、名を契此、号を定應大師という人物である。明州奉化県の岳林寺に名籍をもったが、杖と布の袋とをたずさえて各地を放浪した。そして人々が施す供物を全てその袋に貯えたことから「布袋」と称されたという。神意を多くあらわし、民間では弥勒の化身として信仰を集めた。図像としては古くより道釈人物画の画題として好まれ、日本でも画僧・画工などによって多く描かれている。
 本図の布袋は、伝承に基づいた禿頭・肥満の体躯に、杖と布袋を持つ姿で描かれており、布袋の円満な印象を感じさせる作品である。また、袋や衣の稜線や身体には筆線が用いられており、背景などは白く省略されるなど、この時期の春草の画風の特徴を示す要素もあらわれている。