原在中 「後赤壁図」  天保3年(1832) 絹本淡彩 54.1×86.0p 軸装一幅
 原在中(1750〜1837)は、円山四条派、明清画、土佐派の筆法を加味して原派を築き上げた人物である。寛政度の御所造営時に加わり、以後も多く禁裏の画事を務めため、宮廷派との異名もとった。
  本図は、蘇軾(蘇東坡)が元豊元年(1082)に二度訪れた後漢末の戦跡赤壁の風景を描くものである(正確には古戦場の場所とは異なる)。二度目の来訪にあたる後赤壁に取材するものであるが、景観描写に終始し、わずかに左隅岩影に舟に乗る人物が配されるだけである。赤壁は、蘇軾が詠じた悠久を感じさせる名詩「赤壁賦」の詩意を描く伝統的な中国画題であり、江戸時代末期には定型化をたどるが、ここでは通例の放鶴や舟遊の情景は描かれず、山水表現に絞り込んだ独特の構想が見える。岩の皴法などは精緻を極め、淡色ながら明快な彩色も施されている。詩文に固執しない構想の新鮮さと確かな描写力は、明治期の到来を予感させるような近代味も感じさせる。